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あつまれ おもちゃのマルチャ!/解説

全体解説

 今年の課題曲のもうひとつのマーチは、昨年の課題曲『マーチ「メモリーズ・リフレイン」』の伊藤士恩さんの曲。同一作曲家が2年連続で課題曲になるのは初めてかと思ったのですが、岩井直溥氏(1975年と76年)など過去にもあるようですね。今年の『あつまれ おもちゃのマルチャ!』は昨年と作風が違い、アルフォードを思わせるような、あるいはスーザのようなマーチらしさもあり、そんななかにアニソン風の響きやミュージカルのようなリッチな響きもあったりして、とてもバラエティに富んだ楽しい曲ですね。マルチャ(marcia)とは、イタリア語で「行進曲(マーチ)」を意味する音楽用語です。いろんな要素が入った賑やかなおもちゃ箱的な意味で、「あつまれ」なのでしょうか?

 構造を見て行くと、4小節の前奏のあと、Aのテーマが2度繰り返され、ブリッジCとDの部分を経てAが再び出てきてトリオへ。トリオのテーマが2度繰り返されるのですが、2度目は1小節遅れで追いかける輪唱的なオブリガートを伴います。Aのモチーフを生かしたブリッジ(J)を経て再び出てくるトリオのテーマは、Aのテーマの変形もオブリガート的に伴っています。そして豪華な終結へ。モチーフ展開が秀逸で、それが、いろいろな要素が出てくるこの楽曲に統一感を与えていると思います。全体に占めるTutti(全奏)の割合は33%と、課題曲マーチとしては少なめですね。

 強弱記号は特に前半、豊富に書かれています。最も強い強弱はffで、6回出てきます。なぜその箇所はfではなくffなのかを考えてみてください。逆に最も弱い強弱はpで、こちらは2回出てきます。アーティキュレーションについては必要以上に書かれてはいませんが、たとえばアクセントなど、意味を持たせて書かれていると思うので、それを推し量ることも大切だと思います。もちろんそれは強弱記号についても同様ですね。

 ハーモニーについて言えば、例年のいわゆる課題曲マーチにくらべて傾向として4和音が多めなように感じます。Aのテーマの冒頭からmaj7thですしね。それが華やかな印象をもたらしているように思います。そしてやはりホルンとトロンボーンが分担してあとうちを担当している場面が多いです。例年書いていることですが、あとうちも『ハーモニー』です楽譜倉庫 に『あとうちハーモニー練習楽譜』をつくって置いていますので、ホルンとトロンボーンのみなさんはぜひそれを使って低音楽器と一緒にハーモニーを捉える練習をしてみてください。

 それから、途中に休符が入ったメロディが多いですよね。その休符はもちろん、フレーズの切れ目とは限りません。休符をはさんでフレーズがつながっている場合も少なくないです。休符を音符で埋めて少しテンポを落としてレガートにしてみる練習なども、いろいろな意味で有益なように思います。たとえばこんなふうに…

レガートで練習

 それでは、最初から見て行きましょう。イントロ4小節、山はどこでしょうか。アクセントのある4小節目2拍目でしょうか。でも、ここからmfですよ。イントロの山はドミナントを感じる4小節目あたまですよね。では、4小節目2拍目のアクセントってなんでしょうか。この拍って、アウフタクトなのでしょうか。これは、Aのメロディに導く、Aのメロディを引き出すなにかだと思うのです。だとしたらどんなアクセントがいいと思われますか。そしてこの拍、ハーモニーはオーギュメント(増3和音)です。オーギュメント自体は珍しい和音ではありませんが、この曲では多用はされてはいません。この部分、この先への伏線だと捉えるのは考えすぎでしょうか…。

 Cの部分、おなじ動機が2度繰り返されますが、ここでハーモニーを意識に入れてほしいのです。C(37)からと、C9小節目(45)から。

Cの部分

音を聞いてみましょう。まずはC(37)。

そして、C9小節目(45)。

特に、楽譜に赤丸で示したハーモニーの響き。1回目とまったく違いますよね。これを意識に置かずに通りすぎないで、ちゃんと響きを感じ取って演奏してほしいと思うのです。コード的にはマイナーセブン♭5(ハーフディミニッシュ)という和音なのですが、特にここのように♯IV上に出てくるこの和音、なんだかとても色合いが変わると思われませんか。朝焼け色みたいな…。ちなみにマイナーセブン♭5が出てくるのは全曲中ここだけだと思います。見落としがなければ…。尤も、終盤Mの3小節目(195)もマイナーセブン♭5の第3展開形と言えなくもないですが…

 そして、Dの5小節目から音型のリレーがありますよね。意識に入れてみてください。

 さて、スコアに掲載されている作曲者さん自身の解説に、『「ブラックアダーコード」の派生のような和音が1度だけ登場します』とあります。そもそもブラックアダーコードとは何なのでしょうか。ハ長調で書いてみると…

ブラックアダーコード

赤丸の和音。ドミナントの一種で、Vaugがベース♭IIの上に乗ったコード。緊張感が強く、限定進行(赤線、特定の音に進まなければならない音)が多いことも特長です。J-popやアニソンで多用されるようです。音を聴いてみましょう。

なんだか言われてみればアニソン的な感じがしますよね。ではどんな曲で使われているのかというと、たとえば槇原敬之さんの『どんなときも』のサビ直前に出てきますね。ここではサブドミナントIVに行くブラックアダーコードです。弾いてみてください。

どんなときも

さて、では、マルチャではどこにこれが使われているのでしょうか…。ここですね。E(65)の前。赤丸の部分。62小節は便宜上C♭7と書きましたが、ほんとうはC♭7ではないと思います。ここではドミナントVに行くブラックアダーコード(の派生形)。E1拍前はトニックへのブラックアダーコード、しかもaug7になっています。この7thの音(As)は2ndと4thのホルンにしかありません。

Eの前

音を聴いてみましょう。

なにしろ、この面白い響きをよく感じてみてほしいと思います。

 Eからまた最初のメロディが戻ってきて、11小節目(75)、同じ動きは何度か出てきましたが、ここにだけアクセントがついています。そして音もハーモニーも前とは違いますよね。意識してみてください。このアクセントにはどういう意味があるのでしょうか。前半の終結を引き出す決めのような意味なのかもしれませんね。そしてそのあとにこの曲で5度目のffが出てきます。

 F(81)からトリオです。トリオのメロディも休符を含んでいますね。フレーズのつながりを感じて演奏してほしいと思います。繰り返すH(113)からは、1小節遅れで追いかけるような動きが対旋律としてともなっています。いいバランスで欲しいところです。I2小節目(130)からのピッコロは際立つように。

 そしてJ(145)。これまでの変イ長調から突然ヘ長調へ。5小節目(149)で変ロ長調、9小節目(153)で変ホ長調、154からは1小節ずつ下属調へどんどん♭が増えて(変イ、変ニ、変ト、変ハ、変ヘ、重変ロ)、K2小節前(159)で裏から(詳しい説明は省きます)変イ長調に戻ってきます。Aのモチーフを使ったとても面白いブリッジですが、演奏に際してはもしかしたら難所になるのかもしれません。それぞれの調性の音階を練習してみてください。そしてこの部分、楽器に任せず声でも歌えるようにするといいと思います。

 K(161)からトリオのメロディがAのモチーフによるオブリガートを伴って戻ってきます。そして終結に向かうのですが、M4小節前(189)からのリッチなハーモニーを感じてみてください。この部分。

M

音を聴いてみましょう。

響きをおぼえて演奏してくださいね。

トロンボーンパート解説

 それではトロンボーンパートを見ていきます。まず、上のD音は4ポジション(替えポジション)の使用も検討してみるといい箇所もあります。C(37)の16分音符、トロンボーンはタンギングをしないとグリッサンドになってしまいますよね。しかもスラー…。そして、もしかしたらダブルタンギング(DuGuDuGu)が必要かも…。1stと2ndは、裏ワザとしてA音は1ポジションのままF管を使う手もあるか…(微妙なところですが)

 E(65)のオブリガートなど、もちろんマルカートではっきり欲しいところなのですが、でもフレーズを感じられるように。テンポを落としてレガートにして練習してみましょう。

 K8小節前(153)から、イヤなところかもしれません。ゆっくり練習しましょう。やっぱりレガートで練習してみるのもいいと思います。まんなかのF音は6ポジション、チューニングB音は5ポジションでも出ます。ただし音程注意。この替えポジションを使うかどうか、検討してみてください。

 それでは、いい演奏になりますように。

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2026年度課題曲III
解説/福見 吉朗

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