福見吉朗のホームぺ―ジ/FUKUMI, Yoshiro's Homepage

ザ・ガーズ/解説

全体解説

 今年の課題曲のマーチは2曲とも2/4拍子。例年にあるような4拍子のマーチがありません。この曲はいわゆるブリティッシュスタイルの戴冠行進曲。格調高い落ち着いたマーチです。たとえばエルガーの威風堂々などを聴いてみられるとイメージがつかめるかもしれませんね。タイトルの『ザ・ガーズ』はロンドンのバッキンガム宮殿を守る近衛兵のことなのだそうです。

近衛兵

 曲の構成を見て行くと、冒頭からBまでの部分を長い前奏と捉えるか難しいところなのですが、前奏と捉えるのにはやはり無理があると思います。冒頭からBの前までを第1マーチ、BからDの前までを第2マーチ、Dから第1マーチが戻ってきて、経過句を経てEからはトリオと捉えられると思います。属調へ転調していますので、マーチのスタイルとしては少し珍しいですね。ヨハンシュトラウスのラデツキー行進曲のトリオが属調ですね。トリオの中も、Fからブリッジ的な部分があって、Gからまたトリオの旋律が戻ってきます。そしてHで第2マーチに戻って経過句を経てJで第1マーチが戻ってきて、Kから終結へ。全体としてABA、その中で前半とトリオもABAというような構成になっていると思います。

 全体の中でのTutti率(全奏が占める割合)は53.5%。課題曲マーチの中では少し多めです。そして強弱などはそんなに多く書かれていません。音の厚みや音型の上下、ハーモニー、そういうものを読み取って、抑揚や歌い方を作っていきたいところです。逆に薄く書かれているところも多いので、オーケストレーションによって書かれているダイナミクスは自然に出来ていくようにも思います。

 この曲のひとつの特長として、全編にわたってですが、ハーモニー付けがとても巧みだということが言えると思います。ちょっと難しい解説をすると、ハーフディミニッシュ、つまり、マイナーセブン♭5という和音が多く出てきます。短7の和音の第5音が完全5度ではなく半音低い和音なのですが、2022年の課題曲III『ジェネシス』にも多く出てきた和音です。ザ・ガーズの中ではおそらく30回以上出てくると思います。これはでももちろん、なにかの意図があってそう書かれたのではないと思います。なにしろ巧みなハーモニーが、この曲の重厚さ、格調高さを決定づけている要素のひとつだと思います。

 ハーモニーを具体的に見てみましょう。冒頭、主旋律と低音の動きです。

イントロ

さて、この動きにみなさんならどんなハーモニーをつけますか。この曲ではこんなハーモニーがついています。

イントロハーモニー

先に書いておきますと、赤線で示した箇所、声部をまたいではいますが、3つの半音進行があります。ひとつひとつのハーモニーも大切ですが、ハーモニーのつながりや各声部の動きはもっと大切です。音を聴いてみましょう。

よく感じて聞いてみてください。よくこんなハーモニーを考えつくなと思われませんか。 続いてE(89)、トリオの部分です。旋律は…

トリオ

素朴で単純な旋律ですよね。このメロディに、みなさんならどんなハーモニーをつけますか。この曲ではこうです。

トリオハーモニー

特に赤で示した動き、ハーモニーの内声の中の美しい動きに注目してほしいのです。そういう動きの結果としてハーモニーが出来ている(決して逆ではなく)ということが言えると思います。だから、その動きを感じてみてほしいのです。楽譜には示しませんでしたが、この譜例の13小節目(下の段の5小節目)からの2つの半音下降進行も注目してほしいところです。音を聴いてみましょう。

ハーモニーの美しさが際立っていますよね。響きの色合いとその変化を、ぜひ感じ取ってほしいと思います。また、E(89)へのブリッジも、一瞬ト短調に行きそうに見えて、ふっと変ロ長調に着地するところが美しいですよね。

 さて、難しい話ではなく、ではこの曲のハーモニーをどう演奏に生かしたらいいのか…。ぜひ、『響きの譜読み』をやってほしいのです。個々の音符の譜読みとは別の、全体の響きをひとりひとりが意識に入れる。響きを感じて捉える。個々の譜読みが出来た上で、合奏でmfかmpくらいのラクなダイナミクスで、テンポをうんと落としてハーモニーの響きとそのつながりをみんなで感じ取る練習。これ、この曲の場合には特に必須だと思います。それぞれがただ個々の楽譜を正確に演奏することだけを考えて演奏するのと、ひとりひとりの身体の中に全体の響きが入った上で演奏するのとでは、合奏から出てくる響きは雲泥の差です。その響きの中での自分の居場所をつかむ。これには理屈がわかる必要はありません。響きとそのつながりをひとりひとりが感じ取るのです。

 そしてこの曲、動きがリレーされて出てくる場面も多いです。たとえばA9小節目(25)からのアルトクラリネット、アルトサックス、トランペット2、ホルンの動き、そのあとA11小節目(27)からのファゴット、テナーサックス、ユーフォニアムの動き、この形の統一。B9小節目(41)からのクラリネット、トランペット1の旋律と、ファゴット、アルトサックス2、テナーサックス、ホルン2、ユーフォニアムの対旋律の動きの中にある赤丸で示した動きのリレー。その4小節後にも楽器を変えて同じ形がありますね。そしてこの部分、低音楽器(テューバ、コントラバス、バスクラ、途中からバリトンサックスへ)の音階上行形のラインも大切にしたいところです。

リレー音型1

それからC5小節目(53)2拍目からの低音(バリトンサックス、テューバ、コントラバス)の動きをリレーして次の小節2拍目からのアルトクラリネット、アルトサックス、ホルンの動き、さらにその1小節あとのテナーサックス、トロンボーンの動き。そしてE8小節前(81)から、この動きが楽器を変えてリレーされていきます。

リレー音型2

まだまだリレーの箇所はありますので探してみてください。これらのリレーの意識と音型の統一が大切だと思います。それからこの曲、マーチなので当然ではあるのですが、打楽器が果たす役割は大きいです。たとえばトライアングル(大切です)のビータの選択など、音にこだわって作り込んでいきたいところです。打楽器についての詳しい解説は、打楽器の方の解説に委ねたいと思います。

トロンボーンパート解説

 それではトロンボーンパートです。小編成なので2パートしかありません。トロンボーンだけで響きが完結していない部分が多いので、関連する他パートと一緒に練習してください。2番は低音との共同作業も多いです。10小節目などの8分音符のテヌートはなぜ書かれているのでしょうか。それは、旋律の動きに対するハーモニーだからだと思います。テヌートの8分音符の部分、旋律は16分音符で動いています。それに対するハーモニーだということを意識してみてください。同様の個所はほかにもありますね。

 F(105)の部分はホルン、ユーフォニアムと一緒に合わせてください。共同作業です。G8小節目(130)、I(155)、トロンボーンだけです。際立たせたいですね。終盤の難所K(187)、変ハ長調(Ces-dur)、変ヘ長調(Fes-dur)の音階を練習してみてください。そしてこの動き、ぜひゆっくりレガートにしても練習してみてください。いろいろな意味でプラスになると思います。

 それでは、いい演奏になりますように。

ご質問そのほかなにかありましたら、 コンタクト からメールをいただけるとさいわいです。

また、吹奏楽指導も承ります。 レッスン、バンド指導、指揮のご案内 から。

2026年度課題曲II
解説/福見 吉朗

ページトップへ戻る

課題曲解説/目次へ