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メルヘン/解説

全体解説

 今年の委嘱曲、酒井格さんの曲です。作曲者の解説に、『メルヘンとは童謡、おとぎ話を表すドイツ語ですが、この作品に特定のストーリーが存在するわけではありません』とあります。が、なにか物語を考えてみるのも曲のイメージをふくらませるのに役立つかもしれませんね。目まぐるしい場面転換が、まるでミュージカルのような感じもします。曲の構成としては、なにかの形式に則ったというものではなく自由な形式に思われますが、[H]からのワルツが中間部的な見方も出来るように思います。

モチーフ

 自由な形式で書かれているのですが、酒井さんによると、2つの重要な主題があるのだそうです。さて、その2つとは…。ひとつはすぐにわかりますよね。何度も何度も(楽曲中に二十数回)出てくる譜例の主題1。では、もうひとつはどれでしょうか。譜例の主題2だと思うのですが、どうでしょう。あるいは譜例の3でしょうか。これらの主題がいろいろに何度も出てきて、曲が展開されていきます。ところで、この主題1、もしかしたら近鉄電車の車内チャイムではないかと思うのですが、違うでしょうか…。だとしたら近鉄さん大喜びですね。そしてそれを使ってこんな世界を展開される酒井さんの創造力と吹奏楽愛、すばらしい楽曲ですね。

 それでは最初から見ていきましょう。冒頭、主題1のユニゾンかから始まって5小節目のフォルテシモしっかり決めたいです。6小節目([A]1小節前)からやわらかい音楽になりますが、テンポは変わっていないことに留意。ここから4分の4拍子から2分の2拍子になる感じで2つで振ってもいいかもしれませんね。4分音符の動きはフォルテ、長い音はメゾフォルテです。遠近感。ディミヌエンドを経て[A]の3小節目で合流です。[B]の1小節前からは、もちろん『主題1』が浮き出るように。3小節目からは全体でのクレッシェンドを意識して。6小節目でピアノに落ちますが、その前はどこまで行きましょうか。メゾフォルテくらいまでにしておくのがいいように思えます。6小節目からは松葉(クレシェンドディミヌエンド)がありますが、4分音符の動きがちゃんと聞こえるようにしたいです。

倚音

 そのあと meno mosso から、それぞれの動きとそのハーモニー、どの楽器が同じグループかを意識出来るといいです。そしてこのモチーフ(譜例)の3拍目の8分音符と次の1拍目の4分音符は倚音ですね。ただし[C]5小節目3拍目の8分音符は倚音ではありません。ですのでアーティキュレーションも違っていますね。倚音については課題曲2にたくさん出てきますが、響きを感じて少し重心を置いて。倚音などの非和声音についてはこちらのブログに書いていますので読んでみてください。

 [D]からは主題が断片的ではなくはっきりと(フルネームで)出てきます。これがメインテーマと考えていいように思います。[E]から4小節間、1小節ごとの入れ替わり感が出るといいです。それぞれの動き、特にハーモニーパートが小節の音価いっぱいきっちり演奏するといいですね。そして、トランペットの動きだけがメゾフォルテ、ほかはピアノです。遠近感。

 [E]7小節目、[F]7小節目、ともに、1拍目の低音楽器、しっかり欲しいところです。そして[F]5小節目、1拍目の空白、意識に置いて。[G]、アクセント系の音楽からレガート系の音楽へ5小節間で遷移します。全体でうまく演出してください。同時に半音階的に変ロ長調からニ長調へ転調します。中間部的なワルツの[H]では、旋律やハーモニーがほとんど毎小節、倚音的な動きで出来ています。響きをよく感じて自然に重心を置きたいところです。そのエネルギーの遷移がわかると自然に歌い方が出来上がるように思います。

 [I]も、[E]と同じくシロフォンとフルートピッコロの動きだけがメゾフォルテ、ほかはピアノです。遠近感。[J]からはもちろん、毎小節それぞれの楽器に出てくる動機を浮き立たせたいです。もちろん強弱にも気を配って[K]へ向けて全体で大きなクレッシェンドになるように。そして[J]の前から[K]に至るまで、調性もどんどん変わります。ゆっくり響きを確かめる、それぞれが響きをよく感じる練習をしたいところです。

 [K]、あたまのフェルマータをどれくらいするのかは個性が出そうですね。マエストーソ(堂々と)112のテンポから rit. 、4小節目 accel. して2小節間で Allegro vivace (テンポ152)へ。しかもこの部分、木管楽器は8分音符の3連符、金管と低音楽器は全拍3連、合わせるのは難しそうです。後者の全拍(2分音符の)3連符は、拍の中の音符の位置を把握していないと出来ません(下楽譜)。小太鼓で8分音符の3連符を叩いてもらってそれに合わせてみるなども有効かもしれません。

3連符

 あるいは裏技として、この1小節([K]5小節目)だけは3つに振る手もあるでしょうか。その場合、下の楽譜のように、木管の3連符はこの1小節は4つづつで1拍に取ります。

4つに取る

 [K]の4小節目から、テンポ100から152へ向けて accel. させた音をコンピューターで作ってみました。4分音符のクリック(スネアドラム)なしと、クリック付きです。なにしろ、よく練習してください。構造をわかっていないと合わないと思います。

accel.あり、クリックなし

accel.あり、クリックあり

accel.なし、クリックなし

accel.なし、クリックあり

 そのあとの[L]の poco meno mosso 6/8は、ひとつのやり方として、Alleglo vivaceと8分音符が等しくなるテンポにするときれいにつながると思います。とにかく目まぐるしく場面が変化するとっても楽しい曲なので、場面の雰囲気をよく感じて、楽しんで演奏してほしいですね。

トロンボーンパート解説

 それでは、トロンボーンパートを少し見ていきましょう。まず、この曲の3番トロンボーンはトロンボーンパートの下声部というよりもテューバなど低音楽器群との共同作業が多いです。もし、テナーバストロンボーンとバストロンボーンを選べる状況なら、この曲の3番パートはバストロンボーンでされるのがいいと思います。そして、トロンボーンだけではハーモニーが完結しない箇所も多いです。パート練習はユーフォテューバなどと一緒にするのがいいと思います。

 主要モチーフ(近鉄電車?最初の譜例の1)がトロンボーンにも多く出てきます。強弱やアーティキュレーションはいろいろですね。アクセントで出てきたりレガートがついていたり…。その違い、それはどういう意味、意図があるのかを読み取って演奏したいです。[B]1小節前はトロンボーンだけですが、それ以外の箇所はどこかの楽器と一緒です。どの楽器と一緒なのかを意識に置いて演奏しましょう。

 ハーモニーはどこかの動きに付随するものであることもあります。どこと同じグループなのかをわかって演奏してください。[I]など、調性が変わって難しいところもあります。響きをよく聴いてゆっくり合わせてみてください。

 それでは、いい演奏になりますように。

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2024年度課題曲III
解説/福見 吉朗

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