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風がきらめくとき/解説

全体解説

 スコアに書かれている作曲者自身の解説に、「風光る」という春の季語を思いながら書いたとあります。暖かくなり、日差しが強くなる季節に、吹く風も輝くように思える様子をさす言葉なのだそうです(Wikipediaより)。春のよろこび、輝き、はかなさ、そのすべてが含まれているような、とても美しい曲ですね。

 この曲については吹奏楽連盟から楽譜の訂正が出されています。アルトクラリネット。修正してください。

 まず楽曲の起承転結を俯瞰するために、これが正解かどうかわかりませんが全体の構造を考えてみます。

譜例

 上の楽譜に示したのは、楽曲に出てくるおもな動機です。序奏というかプロローグのあと、1のモチーフを展開した音楽が[A]から始まります。それが終わると今度はそのモチーフを逆さまにした形の2のモチーフを展開した音楽が[B]です。そして[C]アウフタクトからは、今度は3のモチーフを展開した音楽が始まります。この部分は転調を伴って発展し、前半のクライマックスを迎えます。そして後半[D]からは、4のモチーフを使った音楽が始まります。フルートとアルトサックスのソロを経て、[F]からこの音楽がさらに展開していき、[G]のオルゲルプンクトを経て全体のクライマックス([H]2小節前)へ。そしてエピローグ的な[H]で曲を終える…。全体を見通して展開をつくることが大切だと思います。

 この曲はひとつの音から始まって音階的な動きから声部が分かれて広がっていき、ハーモニーになる、たとえばそんなふうにして出来ているように思います。和音が先にあるのではなく、まず声部の線、動きがあって、それが重なり合って響きが生まれてくる。ですので、ひとつひとつの響き(瞬間和声)を合わせることよりも、そのそれぞれの線(動き)を美しくつくっていくことがいいように思います。歌って合わせてみるのもいいと思います。そしてもうひとつは、特に前半部分ですが、非和声音(倚音、係留音)の美しさ。これをぜひ大切にしてほしいと思います。倚音と係留音の処理がうまくいけば演奏は半分以上成功したも同然だと言った人もいますね。非和声音についてはちょうどこちらのブログに書いていますので読んでみてください。さらに、強弱の立体感も注意深く見て欲しいところです。

 最初から見て行きます。冒頭Es音から始まり、それが広がって2小節目3拍目の響きを導く。4小節目もEs音から広がって、新たな動きも生まれる。ここで見て欲しいのは、5小節目3拍目。クラリネット1st2nd、アルトサックスの動きの中のB→As。このBは倚音です。それが4拍目Asで解決する。この響き、よく感じてほしいところです。倚音は、ハーモニーの中のぶつかっている音。これを少しだけ強調するように重心を置く。わざわざテヌートが書いてありますが、そういう意味で書かれているのだと思います。そしてそのB音から、フルート、ピッコロ、オーボエの動きも生まれてくる。

 [A]、音階の動き(Bクラ、アルトサックス)があって、途中から入って来る動き(3拍目、アルトクラ、テナーサックス、ユーフォ)がありますよね。この動きは、別ものになるのではなく、あたかも音階の動きから分岐して生まれてきたようになるといいと思うのです。分かれて広がっていく。同様の個所はこのあともいくつもありますので、スコアから見つけていってください。そして、この分岐した動きの2小節目3拍目、D→C。このD音は倚音です。5小節目、F→B→G(Bクラ、アルトサックス)、D→Es(アルトクラ、テナーサックス、ホルン)、倚音です。そのあと6小節目からの木管楽器8分音符の動き、小節をまたいでタイでつながった音は係留音です。

 [B]のあたま、アルトクラ、テナーサックス、ホルンの動きだけが残ります(D音)。[C]の1小節前、低音は残りません。こういうところも注意深く生かしたい工夫ですね。[B]2小節目3拍目、D→C(フルート、オーボエ、アルトクラ、ホルン)、倚音です。[C]2小節目As→G、4小節目Ces→B、倚音です。ここで非和声音を全部拾っていくときりがありませんので、注意深く見つけてぜひ演奏に生かしてください。演奏の成否を左右します。全体でゆっくり合わせて注意深く響きを感じてみてください。そういう練習を『響きの譜読み』というのですが、この曲では特に必須ですね。

 [C]の部分は転調を伴います。調性は把握しておいた方がいいと思いますので書いておきますね。最初は変ホ長調、3小節目アウフタクトから変ト長調、5小節目アウフタクトからイ長調、7小節目からニ長調、9小節目で変ホ長調に戻って次の小節でハ長調、[D]は変ニ長調、[E]で変ホ長調に戻るという感じだと思うのですが、どうでしょうか。

 [C]は強弱の立体感にも留意したいところ。5小節目、メロディグループは mf 、ハーモニーと伴奏グループは mp で、さらにクレシェンドディミヌエンドがついていますね。7小節目からの強弱の立体感も、うまく生かしたいところです。[G]から、旋律グループとフルートオーボエは ff 、ハーモニーパートは f です。ただし、トランペットのアクセントのついているヘミオラのリズムは生かしたいところです。ここ以外にも強弱の遠近感を生かしたいところはいくつかありますね。

トロンボーンパート解説

 それではトロンボーンパートを少し見ていきます。ハーモニーを担うことが多いのですが、トロンボーンだけではハーモニーが完結していないところが多いです。テューバなど低音と一緒に合わせるのがいいと思います。そして、時々出てくる同じ音を結んだ点線のスラー、これはどういう意味なのかというと、ハーモニーのほかの声部はここでスラーで動いていますよということです。普通のスラーで書くとタイにされてしまうかもしれませんよね。タイではなく他声部と同じスラーで演奏してくださいね、ということなのです。

 強弱についていくつか…。[C]5小節目~6小節目、書いたようにクレシェンドディミヌエンドはサックスの動きに寄り添って。[D]、トランペットの動きに寄り添って。そして4小節目([E]1小節前)、テヌートの付点2分音符は、[E]あたままで保って。入れ替わりで木管が出てくる感じになるといいです。[G]の部分、長い音は少しラクに演奏するのでいいと思いますが、途中に出てくるアクセントの4分音符の動き、旋律と対等に堂々と

 それでは、いい演奏になりますように。

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2024年度課題曲II
解説/福見 吉朗

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