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インテルメッツォ/保科洋

全体解説

 保科洋氏の久々(19年ぶり)の課題曲です。保科氏の課題曲は1976年の『カンティレーナ』、1987年の『風紋』、1998年の『アルビレオ』と、11年ごとに3曲。そしてしばらく空いて、今回が4曲目になります。過去の課題曲を聴いてみるのも参考になると思います。

 今回の『インテルメッツォ』は『「歌のある曲」を意図して』作られたとのこと。フレーズ各所に歌心が溢れていて、どのパートにも『歌』があります。自分のパートを楽器で練習するだけではなく声でも歌えるように。そして、楽器で合わせるだけでなく声でも合わせてみる。合唱にしてみることも、とても有意義な練習だと思いますよ。また、この曲、どこかドビュッシーの雰囲気がある気がします。ですのでドビュッシーの音楽を聴いてみるのもあるいはイメージをふくらませるのに役立つかもしれませんね。『小組曲』とか『牧神の午後への前奏曲』とか…。

 『パートによってダイナミクス記号が違うのは音色のコントラストを意図しての表記です』とあります。作曲家が、ある箇所で楽器ごとに違う強弱を書く理由は大きく分けて2つあると思います。1つは、バランスを意図したもの。『この楽器のこの音域は沈みやすいから大きめのダイナミクスを』というような場合。そして2つ目は、それぞれの声部を実際にそういうバランスで欲しい時です。楽器ごとに違う強弱をスコアに発見した時は、その意図を読み取らなければなりません。この曲の場合は後者だということです。それをふまえて全体のバランスを組み立てる必要があります。そういう意味では、強弱記号に限らずとても緻密に書かれています。よく意味を読み取ってください。

 さて、この曲を演奏する上でのポイントは、『流れの共有』です。テンポも早くないですし楽譜も一見あまり黒くない。でも、それぞれ8分音符の動きや3連符の動き、それがタイでつながっていたり拍の裏から入ったり、そういう各声部がうまくからみ合ってひとつの流れをつくるのは、かなり高度なことだと思います。どうすればうまくいくか…。

 たとえば譜割りを見ながら、『この音符とこの音符が合って…』と縦合わせをしていっても、音楽の流れはできません。それよりまず大切なことは、ひとりひとりが自分の中にテンポ、流れを持って演奏すること。練習のときはそれぞれがメトロノームを使うと思いますが、メトロノームの刻みにタイミングを合わせていくのではなく、自分の中にテンポ、流れを持って演奏し、そのテンポが歪んでいないか、自然なものか、それを確認するためにメトロノームを使う。そして合奏に入っても、やはり個々がちゃんと流れを持って積極的に演奏し、その流れを共有していく、そして全体としてひとつの音楽の流れができていく。

 とはいえもちろん、同じ動きのパートをスコアで確認してニュアンスや歌い方を合わせる、どの動きとどの動きが組み合わさってひとつのラインができるのかなどは確認して合わせていく必要があります。ただやはり、まずは個々が自分の中に流れを持って主体的に合わせていくことで,音楽が出来ていくのだと思います。

 そして、楽譜の意図をよく汲み取りますが、楽譜に書いてあることをやっただけでは不十分です。音楽的分析に裏打ちされた、自然なフレーズ感とアゴーギク。どこからどこまでが1つのフレーズで、その中のピーク、重心はどこなのか、それにともなう音楽の緊張と弛緩、エネルギーの出し入れ、それを表現できてはじめて、この曲の『歌』が生きてくるのだと思います。

 この曲ではフレーズの山、重心に『倚音』(非和声音のひとつで、2度進行して和声音に解決する)が置かれている箇所が多いですね。たとえば[1]の3小節目(11)はハーモニーはF7なのですが、メロディはG→F。G音が倚音です。5小節目(13)のハーニーはE♭7なのですが、メロディはF→E♭。3小節目は2分音符、5小節目は4分音符。非和声音の音価が長いほど、そこに大きなエネルギーがあると読み取れるので、3小節目の山のほうが高いというふうに見えます。たくさんあるそういう非和声音を探して,味わってみる。アゴーギクをつける上でも大切なことですね。

 フレーズごとに書き分けてある強弱にも、よく注意を払います。たとえば[2]の10小節目(26)、フルート、クラリネット族の旋律はおさまるところなのでディミヌエンドがありますが、トランペットとサックスには次の小節のピークに向かってクレシェンドがあります。そういう歌ごとのエネルギーの出し入れから生まれるグラデーションも大切にしたいポイントです。音楽がとても立体的になりますね。

 [5](48)からの中間部、金管と木管が交互にテーマを奏しますが、mfとp。問いと答えのように強弱の立体感を生かして。8分音符16分休符16分音符の形と、符点8分音符16分音符の形をちゃんと吹き分けること(16分休符が入っているかどうか)も大切だと思います。そこにはどんなニュアンスが込められているのでしょうか。再現部[9](87)の『senza tempo』からの『Tempo I』も、表現のポイントですね。無重力状態…

トロンボーンパート解説

 さて、トロンボーンパートを見ていきます。この曲の3rdトロンボーンは低音群との共同作業もあったりするのでバストロンボーンがいいと思います。そしてクイックミュートが要求される箇所もあるので、ひざの下に挟む、左手でやってみるなど、ミュートのつけ外しもいろいろやってみてください。

 3rdトロンボーン、[1](9)は、2nd、3rdクラリネットの仲間。3小節目(11)は、ファゴット、アルトクラリネット、バスクラリネット、テナーサックスの仲間。[2](17)は、トロンボーンパートは2nd、3rdクラリネットと仲間です。

 [3]6小節目(34)B音は5ポジション、D音(次の小節も)は4ポジションの使用も検討してください。[5](48)から、2ndと3rdは、1stやトランペットなどのリズムを意識に置いて、ニュアンスや音の長さを合わせてください。1小節目(48)と5小節目(52)の符点4分音符は、上のリズムの4分音符と終わりを合わせて。

 [9]3小節目(89)の3rdとユーフォニアムは、ファゴット、アルトクラリネット、バスクラリネットと仲間です。こんなふうに、スコアから仲間を見つけることはとても大切です。

 それでは、いいステージになりますように。

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