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焔/島田尚美

全体解説

 作曲の島田尚美さんは、課題曲に登場するのは2009年の『コミカル★パレード』以来2度目になります。前回は楽しいマーチ。Trioの旋律が美しかったですね。今回の曲とはまったくタイプが違いますが、島田さんのことを知る上でも聴いてみるのもいいと思います。あえて共通するところを1つだけ上げるとするなら、やはりどこかに女性らしさを感じるということでしょうか…。

 さて、『焔』というタイトルはこの曲のイメージを端的に表す一言なのだそうですね。もちろんみなさん調べられたとは思いますが、炎という意味のほかに、『激しい感情や欲望で燃えたつ心をたとえていう語』というような意味もあります。そのほかにこの曲の持つイメージ…、夜、炎、舞、夜叉、儚さ(はかなさ)などを島田さんは書かれています。

 『どのパートもこの曲全体を把握できるように。つまり、各パートが全て、有機的に「音楽」としてつながりを保つように』と島田さんも書かれていますが、こういう曲の場合は特に、全員がスコアを見ることが大切です。もちろんスコアを読むことは、どんな曲においても大切ですが…。

 スコアの何を見るかですが、まず、自分たちと同じ動き、仲間をみつけることが大切です。どこと同じ動きなのか、どこのグループに属するのか。そして強弱を見てください。たとえば、同じ箇所のこの動きはmfで、こっちの動きはmpだったら、その遠近感、立体感がちゃんと出るように作っていくことが大切。同じ箇所が必ずしも同じ強弱とは限りません。計算されて書かれています。

 そしてできれば、なにが言いたいのか、なにをやりたいのかを読み取ってみてください。たとえば、[A]2小節前(6)からの木管低音と金管セクションを見てみましょう。これは何でしょうか。ベルトーンでしょうか。もしこれをベルトーンとして形づくりたかったのなら、各パートの音にきっとアクセントを書くでしょう。あるいはfpを書くかもしれません。ところが、それぞれの拍から出てくるパートの強弱指示はどれもp。そしてすぐにクレシェンドがあり、それぞれ長さの違うクレシェンドはどれも[A]1小節前(7)3拍目終わり(4拍目直前)のffに向かっています。

 これはグラデーションだと思います。1つの色(トランペット1stのDes)から始まって、いろいろな色がだんだんと重なっていって、最後のffでひとつになる。こういう箇所がいくつかありますね。先に入ってクレシェンドしているパートと同じテンションで出るべきなのか、それともそれとは関係なくpで出るべきなのか、そういう見極めはスコアを見なければわかりませんね。緻密な設計図をぜひ読み取って下さい。

 さて、クレシェンドの話をしましたが、いわゆる現代音楽ではない普通の曲の場合、クレシェンドは『2次関数的に』するほうが効果的な場合が多いです。つまり、大きくするのは、後の方に取っておく。ところがこういう現代音楽の場合の多くは、冷たくまっすぐなクレシェンドの方が効果的な場合が多いです。先に書いたグラデーションの効果も、そのほうがよく出せます。機械のように冷たいまっすぐなクレシェンドを意識することで、設計図(スコア)の意図がよりはっきりと浮かび上がるわけですね。

 そしてアーティキュレーション。アクセント、テヌート、スタッカート…。なんらかのアーティキュレーションが書かれた音が多いです。それらをはっきりと正確に奏する必要があります。そうすることによって初めて、スコア上に計算された音楽が浮かび上がってきます。

 それから、スコア上での『集合地点』を確認しておくことも大切だと思います。たとえば先に解説した[A]2小節前(6)からそれぞれに入ってきてそれぞれにクレシェンドした各パートは、[A]1小節前(7)の4拍目直前のffに向かっていく。ここが集合地点。同じように[B]1小節前(16)終わりのf、[C]6小節目(33)のf、[D]1小節前(40)のmf、4拍目頭のf、[E]1小節前(46)2拍目のfなど、それぞれの動きがここで集合するという点を把握しておくことも大切だと思います。

トロンボーンパート解説

 それではトロンボーンパートを見ていきましょう。たとえば[B]1小節前(15)や[B](16)、スコアを見るとわかるように、2ndや3rdは、前からのクレシェンドを受けて入るのではなく、惑わされず自分の強弱(この部分ではmp、p)で入る必要があります。

 [B]5小節目(21)1stの装飾音符はF管を使ってもいいと思います。Gis→A(F2→2)。[B]7小節目(23)、2ndと3rdは、トランペット、ユーフォ、テューバなどの3連符とよく合わせて。アクセントはそれらの楽器に任せて、冷たく正確に。

 [D](41)、スタッカートの8分音符、スタッカートでない8分音符、4分音符、それぞれ正確に長さを決めて意思を持って。もちろん他パートとの関係をよく考えて。

 [E]4小節目(50)2nd、最初のCはF管ではなく6ポジションがお勧め。5小節目(51)1stのDは4ポジションの使用も検討を。

 [H](79)2拍目裏のFは6ポジションの使用を、5小節目(83)1stのDは4ポジションの使用を、それぞれ検討してみてください。11小節目(89)1st、2拍目裏のBは5ポジションの使用を、14小節目(92)2ndと3rdのCはF管ではなく6ポジションの使用を、それぞれ検討してみてください。

 [I]7小節前(96)2拍目のfpはトロンボーンだけ。劇的に聴かせたいところ。ハーモニはもちろんFの長三和音。どんなfpにするか意思を持って。[I]3小節前(100)と5小節前(98)、2ndのBは5ポジションの使用を検討してみてください。

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