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秘儀III -旋回舞踊のためのヘテロフォニー/西村朗

全体解説

 作曲者の西村氏は,一連の『秘儀』シリーズについて,『宗教や内容を特定しない秘教的な祈祷の儀式をイメージ』したと書かれています。神仏に祈ることを祈祷といいますが,祈りがテーマの根底にあるという点で課題曲1の『天空の旅』と共通しますね。

 この『秘儀III』は,宗教的(秘教的)な舞曲だと書かれています。たくさんの僧,あるいはシャーマン(霊媒師のような宗教的職能者)たちが,身体をぐるぐると回転させながらだんだんと集団的トランス,恍惚状態になっていくさまを描いています。舞曲で,最後のクライマックスに向けてテンションが上がっていくさまは,ラヴェルのボレロのようであるかもしれません。

 この曲は3拍子の2拍目にアクセントが多く出てきますね。旋回舞踊を踊ってみるとわかるかもしれませんが,おそらく1拍目でステップを踏んで勢いをつけて,2拍目で回るのでしょうね。そんなイメージを持って平板にならないようにするといいと思います。

 さて,この曲はヘテロフォニー構造でできています。ヘテロとは『異質』。たとえば経典をたくさんの僧が同時に唱えてる時など,ひとりひとり少しずつ声の高さや節回しが違っていたりします。そういうずれやはみ出しを含んだ1つの奏に美的価値を見出すのが,ヘテロフォニー。

 ただ,じゃあ合わなくていいかというとそうではなく,同じ群の同一の動きがきちんと合って1つになっていることが大切です。そしてそのそれぞれが集まって,構造的に集団的ずれを作り出す。合うべきところは合っていることが大切。[A](10)から奏するフルート,オーボエ,Esクラ,1stクラ,2ndクラは1つの群ですが,その中に2つ,あるいは3つの動きがある。そのそれぞれは合っていること。

 そして[B](26)から新しい群が加わってくる。3rdクラ,アルト・サックス,トランペット。先に踊っていたのとは別の集団が踊りに加わってくるわけです。この群も,3つの動きでできている。そうしてまた別の群が加わってきて,さらにそれぞれの群が影響を受け合っていく。和声音楽のように全体に拠り所を求められないので,個々がしっかりと自分の動きを演奏して,そしてどこと同じ動きなのかをちゃんと把握することがとても大切ですね。

 さて,打楽器についていくつか…。まず『put on a Tambourine』の指示があるティンパニー。タンバリンをティンパニーの上に乗せる方法と,タンバリンをシンバルスタンドに固定してその一部がティンパニーのヘッドに触れるようにセットする方法とあると思います。また,どちらの方法でも,タンバリンを直接ティンパニーに触れさせると,ティンパニーの皮とタンバリン本体との『びびり音』が入ってしまうかもしれません。それをなくしたいならば,ホームセンターなどで売っている滑り止めシートをティンパニーヘッドとタンバリンの間に挟むといいと思います。これかあればタンバリンをティンパニーの上に直接置いても滑ってしまうことはないでしょう。また,ティンパニーのどのあたりにタンバリンを置くのか,触れさせるのかでも,音が変わってきます。いろいろ試してみてください。

 『Sizzle Cymbal』ですが,鎖をかける方法,また,1本ないしは複数本のトライアングルのビータをかける方法もあると思います。シズルの音を少なくしたければ,たとえば事務用のクリップをいくつかつなげてかける手もあります。これもいろいろ試してみてください。また,『Monkey Tambourine』は,どれくらい傾けて叩くかで当然音が変わります。『こういう指示だから,こう』ではなく,まずどんな音が欲しいのか,そのためにいろいろな方法を工夫していくことが大切だと思います。

 そして,特に打楽器セクションは3拍子の『ビート感』が大切。正確に演奏することも大切ですが,平板になってしまってはよくありません。ビートが感じられること。グルーヴ。もちろん管楽器もです。

 また,特にフレーズ終わりの音,その長さと処理をどうするのかはとても大切だと思います。共通の意思を持ってていねいに作っていかないと,ただ雑なだけの演奏になりかねません。冷静さとていねいさ,でもその一方でビート感と回転舞踊のステップ。

トロンボーンパート解説

 さて,トロンボーンセクションを見ていきましょう。まずリズムが正確である必要があります。特に裏拍8分音符を正確に。そのためにはやはりどこかに8分音符単位のカウントを持っている必要がありますね。ただし,リズムは正確なのですが,右手はリラックスで。

 F音,6ポジションの使用を検討したほうがいいところが何箇所もあります。B音やAis音の5ポジションも検討してみてください。

 [K](109)からのあたまうちなど休符が入ってくるパターンでは,休符で緊張感を解いてしまうと遅れたり一体感ができなかったりしてしまいます。休符でも緊張感を持って音楽の中にいること。[M]3小節目(130)から始まるグリッサンドのパッセージ,これは好みですが,あまり早く硬く動かさないで,ルーズな感じが出るほうがいいと思います。

 [P](152)からの形は,2拍目のアクセントを生かして旋回舞踊のステップが出るように。[X]6小節目(233)のグリッサンドは2拍間均等に下がる感じ。途中の音もしっかり鳴らして。3rdはインラインダブルの楽器なら,2つ目のロータリーだけ押してG管なら2ポジションから,Ges管なら1ポジションから下がると7ポジションを使わずに済みますね。

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