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天空の旅 -吹奏楽のための譚詩-/石原勇太郎

全体解説

 どんな曲でも,その曲の持つテーマ,作曲者の思い,メッセージを理解し,それに共鳴して演奏することは大切なように思います。それを理解せずにどんなに美しい音を並べても,その曲をほんとうには演奏したことにならないと思います。さて,この曲のテーマは何でしょう…。

 人々の祈りが天空を舞い,永久に旅し続ける。その祈りたちが時には対話し,時には他の誰かの希望となり,生きる力となる。そのような,すべての生命の祈りが繰り広げる,天空の旅の譚詩だ…。作曲者石原氏のエッセイの要約です。空を見上げ,悠久の時に思いを馳せ,人々の祈りを思う,そんな気持ちで演奏するとイメージがふくらむかもしれませんね。

 さて,この曲の特長として,とにかく要素が多いということが言えると思います。たとえば[F]を見てみましょう。まず旋律はエスクラ,Bクラ1st,アルトクラ,トランペット1stと2nd,ユーフォ。そこに途中から合流してくる3rdトランペットの内声。それから2ndと3rdクラ,アルトサックスのコンビネーション連符音型。それとは別にピッコロ,フルート,オーボエの装飾音型。それからトロンボーンの伴奏音型。低音にも3種類の動きがあって,まずファゴットとテューバの2分音符音型,そのおなじ音をリズムで刻むコントラバス,そしてそれが少し変化した形のバスクラとバリトンサックス。それから[F]6小節目からグリッサンドで参加してくるホルン…。低音を1つに数えても,大きく6つの要素があるわけです。そこにさらに打楽器が入る。

 これだけ多くの要素があると,うまく整理しないとごちゃごちゃになってしまいますよね。ひとつひとつの要素がしっかりしていなければならない。バランスを取るのも難しいですが,これだけ多くの要素が一体になるためには,それぞれのテンポ感が大切になってくると思います。見た目の音符のたての線を合わせていては大変ですし,それでは音楽の流れができません。それぞれの要素が,ちゃんとテンポを持って演奏することが大切だと思います。

 中間部もオーケストレーションが薄めですので,それぞれがしっかり自分の動きを演奏できることが大切ですね。たとえば71小節から,『祈る少女のように』という指示があるフルートソロの部分…。クラリネット4声部が順次進行を基本とした伴奏を演奏します。この動き,コードがややはっきりしないですよね。縦のハーモニーで捉えるのではなく,それぞれのライン,横の動きで捉える。それぞれのラインをちゃんと歌うことが大切だと思います。このあたりも,『祈りの対話』なのかもしれません。

 ひとつの方法として,楽器ではなく,まず声で歌って合わせてみる。それがとても有効だと思います。歌えないものは吹けませんし,たとえ吹けたとしても響きやピッチなど曖昧になってしまいます。

 [J]からのユーフォソロ,低音はコントラバスのピッチカートのみ,そして金属系マレット2つの伴奏型。バランスなど難しいと思います。途中からファゴットが加わり,ユーフォと2重奏になります。ファゴットがないバンドではどの楽器で代奏するかも考えどころですが,やはりテナーサックスでしょうか。

 [K]からのトランペット,2小節遅れてホルン,付点リズムが跳ねた感じではなく落ち着いて,まさに祈りのように演奏したいところ。この曲,付点リズムの吹き方の統一もひとつのポイントですね。リズムを正確にするだけではなく,スラー型とアクセント型,さらに,スラーの中で16分休符が入った型,それぞれの形の統一。

 冒頭と,再現部[L]の前に出てくるベルトーンは,それぞれの拍がユニゾンではないので,各拍ごとに響きを確かめてみることも必要かと思います。

トロンボーンパート解説

 さて,それではトロンボーンパートを見ていきましょう。3rdについては特にバストロンボーンを想定されていないと思いますので,テナー3つでもいいと思います。もちろん,音域は高くないのでバストロンボーンでもまったく問題なく演奏できると思います。

 速い部分,特に前半にいろいろな形でたくさん出てくるきざみ型伴奏,これ,1つ1つの音がハーモニーになっていることを決して忘れないようにしましょう。長い音にしてハーモニーの流れを確認しましょう。8分音符で吹いた時も,その8分音符1つ1つがちゃんとハーモニーするように。それがなければここにトロンボーンが入る意味がないと言ってもいいと思います。

 [C]の3小節目(29),7小節目(33)など何箇所かに出てくる16分音符が入った形,16分音符は短すぎないよう,むしろテヌートで入れるような感じでちょうどいいと思います。タンギングは軽く。ダブルで吹く人が多いと思いますが,『TuKuTu』だと短くなってしまうので,少し『DuGuDu』に近いくらい。16分音符もちゃんと音になるように。

 [D]の2,4,6小節目(36,38,40)の符点2分音符,アクセントも大切ですが,それよりむしろやはりハーモニー重視で。硬い音は必要ありません。[F]1小節前(50)の3連符は正確に3等分。

 [H](79)からのハーモニー,1st,D音は4ポジション使用も検討して下さい。

 [L]2小節目(111),1st,2nd,ユーフォのバランスをうまくとって。傾向として,1stとユーフォは高くなりがちな音ですし,2ndは低くなりがちな音。でも1stと2ndの完全4度が合わないと気になりますし目立ちますね。右手と身体をリラックスして。

 [L]5小節目(114)からの1stと2ndの旋律,もちろんトランペットやユーフォとよく合わせて。[M]の3小節前(119)4拍目のD音はもちろん4ポジションで。

 [P]3小節目(148),1stのD音も4ポジションがいいと思います。

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