福見吉朗のホームぺ―ジ/FUKUMI, Yoshiro's Homepage

フロンティア・スピリット/解説

全体解説

 今年の課題曲のもうひとつのマーチ。落ち着いたテンポの堂々とした感じのマーチですね。親しみやすそうな音楽で、楽譜上も難しくなさそうに見えるかもしれません。が、転調が多く出てきたり和声が複雑だったりと、じつはけっこう手強い曲かもしれませんね。とはいえ、音楽としてはわかりやすいので雰囲気をつかんでしまえば早いでしょうか…。全体のTutti率(全体に占める全奏の割合)は24%と、マーチとしてはかなり薄く書かれています。そして作曲者さん自身の解説にもある通り、パーカッションがない箇所もあったりするので、推進力を持ち続けることがポイントのひとつになるでしょうか。

 曲を通して強弱の変化は比較的少ないですね。個々のダイナミクスをそれほど要求しない。その分、オーケストレーションで場面を演出しているように見えます。音楽のテンションを感じて、なおかつひとりひとりがそれに流され過ぎず、冷静さを持って奏でるようにするといいのかな、と思います。そしてアーティキュレーションは豊富に書かれています。それは作曲者さんからの演奏のヒントですね。ただ無思考に受け取るのではなく、その意味、意図をよく汲み取って演奏に生かしたいです。

 そして転調も多く、分数コードが多く出てきますし、和声も少し変わっています。たとえば[B]。4小節間は変ニ長調、そのあと4小節間が変ト長調にも見えそうですが、これ、E♭ドリアンとA♭ドリアンだと思います。モードですね(モードとは元々はグレゴリオ聖歌で用いられた教会旋法なのですが、それが1950年代終わりあたりからジャズに取り入れられ発展したものです)。そしてそのあと、9小節目でト長調、10小節目からはこんな和音です(調号で書いてみました)。

ハーモニー

どうもジャズの匂いがすると思ったら、作曲の伊藤さん、やはりジャズの方なのでした。

 それでは全体の構成から見ていきましょう。20小節のイントロダクションがあって、前半はABA形式。Bの部分は複雑な転調をともない、戻ってきたA([C]の部分)は最初のAよりかなり厚く、ほとんどTuttiで書かれていますが、でも音楽としては同じメゾフォルテ。[D]で転調を伴って盛り上がり、[E]8小節前で下属調の変イ長調に転調します。ここが前半の山ですね。そして書いてはありませんが、ここからトリオといってもいいと思います。[E]から、前半テーマのモチーフから発展したレガートなトリオのメロディがトランペットとユーフォで奏でられ、その旋律が[F]でオブリガートを伴い木管楽器に引きつがれます。複雑な転調を伴う[G]へ。そのあとトリオのメロディが戻ってくるのかと思いきや、Aの旋律へ。再現部的に最初に戻る形式のマーチとも見えますが、調性はここでは変ロ長調(冒頭変ホ長調の属調)。そして再び変ロ長調に転調し、トリオのメロディを用いた壮大なコーダへ。

 最初から見ていきましょう。冒頭、金管楽器のファンファーレ的な動きで始まります。『Grandioso(堂々と)』ですが、強弱はあくまでメゾフォルテです。そもそもこの曲、フォルテという強弱は、イントロの終わり([A]5小節前)、トリオのブリッジ([G]の部分)だけです。そして最後の『Molto Grandioso』([I]の部分)で初めてフォルテシモが出てきます。Trio?に入る前の[D]の部分にすら、フォルテは書かれていないのですね…

 [A]ではメロディ(クラ、アルトサックス)、伴奏ともメゾフォルテですがバランスを取って。[B]の部分、調性については書いた通りですが、メロディとオブリガートの動きはメゾフォルテ、ほかはメゾピアノ(スネアはピアノ)です。13小節目で入ってくるトランペットとテューバ、コントラバスはメゾピアノ(他はメゾフォルテ)の指定ですが、色彩が少しだけ変わる隠し味的効果なのでしょうか?

 そしてそのあと[C]の部分、[A]のメロディが戻ってくるのですが、アルトクラ、テナーサックス、ホルン、ユーフォがメロディに加わります(1stクラはオブリガートへ)。9小節目アウフタクトからはトランペットも加勢します。そして高音木管とグロッケンのきらびやかなオブリガートも加わるのですが、伴奏系を見ると、[A]と同じなのですよね(ファゴットのオクターブだけ少し違いますが…)。しかも、強弱は同じメゾフォルテ。これは、同じに奏でるのがいいのかどうか考えてしまうのですが、あえて同じにするのがいいようにも思います

 そのあと[D]の部分、後半[G]にも同じ転調が現れるのですが、3小節目、変イ短調(変ハ長調)です。7小節目、変イ長調に同主調的に転調しますが、音階の全部の音にフラットがついているという、なかなか演奏し慣れない調性、まずは音階(変ハ長調)をよく練習してください。ゆっくりでいいので。それがちゃんと出来るようになることが近道のように思います。

 [E]、そして[F]、メロディはメゾフォルテ、伴奏系と[F]のオブリガートはメゾピアノです。打楽器はピアノ、あるいはピアニシモ。遠近感。この曲に限りませんが、要素ごとに違う強弱が書かれているのは、単にバランスを考えて気を利かせたのではなく、なんらかの意図があるように思います。そして伴奏にも『cantabile』が書かれていますね。単なるハーモニーではなく、それぞれがフレーズを感じて歌にして

 [G]アウフタクトから、転調は書いた通りです。変ハ長調、よく練習してください。そしてこの箇所が、この曲2度目のフォルテですね。そしてさらに7小節目にはクレッシェンドもあります。その4分音符グループ、サックスや金管などは少しだけフォルテピアノぎみにしてクレッシェンドするのもありだと思います。そのほうがトランペットや木管の動きが引き立つかもしれません。ただ、くれぐれも、やり過ぎないように。このA♭のコードは輝きを持って奏でたいところです。まばゆい希望の光が差し込んできた感じですね。

 そのあとの調性を書いておきます。[G]9小節目、嬰ハ短調(ホ長調)、11小節目、ホ短調(ト長調)、13小節目、ト短調(変ロ長調)。前の平行長調のドミナントから次の短調のトニックへとどんどん調性が変わっていきます。それに伴ってオーケストレーションも厚くなっていって、[G]15小節目(この曲3度目のフォルテ)で、また光が差し込みます。まるで、希望を持って進めば光は見えてくるんだと言っているようですね。まさに『フロンティア・スピリット』です。[H]6小節前のアルトクラ、テナーサックス、トロンボーン、ユーフォのファンファーレ的パッセージは意思を持って。メゾフォルテ。他はメゾピアノです。このパッセージをきっかけに全体のクレッシェンドが始まる、まるでこの動きがなにかを導いているようにも見えますね。この動きは2小節遅れて高音木管楽器に受けつがれます。そして再現部的な[H]を経て[I]のクライマックスへ。まるで映画音楽のようにも思えるこの曲、なにか物語を考えてみるのもいいと思います。

トロンボーンパート解説

 それではトロンボーンパートを少し見ていきます。まず3rdトロンボーン、ところどころ低音楽器と同じ動きに合流するところがあります。その部分は低音と練習してください。書いたようにアーティキュレーションが豊富に書かれていますので、その意図を考えて演奏に生かしてください。他の楽器(特にホルン)と共同作業の部分、トロンボーンだけの部分とありますが、それを意識に置いて演奏しましょう。トロンボーンだけの部分は特に、伴奏型であっても意思を持って演奏してください。

 いろいろすでに書いた通りですが、何ヵ所か…。[F]はホルンと一緒にオブリガートですが、メロディがメゾフォルテでフルート、オーボエ、エスクラ、ベークラ。こっちはメゾピアノです。けっこう抑えて吹くことになると思いますが、でもクリアに欲しいところです。3小節目のD音など、4ポジションの使用も考えてみましょう。[G]1小節前から特に、よく練習してください。ここに限りませんが、(チューニングの)B音は5ポジションの使用を検討した方がいい箇所もありますね。

 それでは、いい演奏になりますように。

ご質問そのほかなにかありましたら、 コンタクト からメールをいただけるとさいわいです。

また、吹奏楽指導も承ります。 レッスン、バンド指導、指揮のご案内 から。

2024年度課題曲IV
解説/福見 吉朗

ページトップへ戻る

課題曲解説/目次へ