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行進曲 「勇気の旗を掲げて」/解説

全体解説

 今年の課題曲、マーチ2曲はどちらも2拍子です。この曲は2/2拍子。例年ですと4拍子のマーチがあることが多いですが、課題曲としては珍しいですね。作曲の渡口公康さんは2011年度課題曲『南風のマーチ』も書かれています。ぜひ聴いてみてください。とはいえ、今回の曲とはずいぶん作風が違っていますね。

 この曲については吹奏楽連盟から楽譜の訂正が出されています。ファゴットの3~4小節目。修正してください。

 もともとマーチの形式といえば、イントロ4小節、第一マーチ16小節が繰り返し、第二マーチ16小節(勇壮な低音)が繰り返し、トリオ32小節(静かで優雅、トリオとは中間部という意味)が繰り返し、そのあとダカーポして第二マーチまで行って終わりという形だったのです。それがだんだん、トリオで盛り上がってダカーポしないで終わるという形になってきました。これ、誰が始めたのでしょうね。スーザのマーチも、多くは(ほとんど)そう演奏されますよね。課題曲マーチといえば、なぜか前半がAABAの形が多いのですが、この曲はマーチの形式を踏襲した典型的なスーザスタイルのマーチですね。スーザのマーチをいろいろ聴いてみるのもいいと思います。

 その形式を見てみると…、イントロ4小節、第一マーチ16小節が繰り返し(A、B、ストレートで書いてありますが…)、第二マーチ16小節が繰り返し(C、D)、トリオ32小節1回目(E、F)、勇壮なブリッジ12小節(G)、トリオ2回目32小節(H、I、ピッコロ、フルートのオブリガート)、ブリッジ12小節(J、Gと同じもの)、トリオ3回目32小節(K、L)、コーダ4小節という構成。Tutti率(全体に占める全奏の割合)53%と、やや高めですね。強弱を見てみると、ピアニシモはなく、ピアノからフォルテまで。エンディングの4小節で初めてフォルテシモが出てきます。

 オーケストレーションを見てみても、奇をてらったところもなく、いさぎいいくらいにオーソドックスです。どこでどんな新たな要素が加わるのか、ハーモニーはどう変わっているのか、そのあたりに注意を向けたいです。そして今年のマーチ2曲ともなのですが、トロンボーンにあとうちがありません。この曲ではホルンがあとうちを担っています。ホルンは全体の半分以上の場面であとうちですね。毎年書いていますが、あとうちもハーモニーです。 楽譜倉庫 にあとうちハーモニー練習楽譜を作って置いていますのでぜひ活用してみてください。低音楽器と一緒に合わせてみてくださいね。意識を向けてみてほしい声部の動きに点線のスラーを書いています。

 それでは最初から見ていきましょう。イントロは4小節。3小節目の1拍目までは全体ユニゾンですが、3小節目2拍目と4小節目あたまの決め(ドミナント)に向かう方向性を少し意識に入れるといいかもしれません。トロンボーンも含んだ4小節目2拍目のハーモニーパートは、単にメゾフォルテに落ちるだけでなく、メロディのアウフタクトに付随するものだという意識があるといいと思います。[A]8小節目の2拍目、[B]1小節前の2拍目、[B]8小節目の2拍目なども同様です。

 [A]、[B](第一マーチ)とも、メロディに付随するハーモニーパートがありますね([A]では3rdクラリネット、2ndアルト、3rdトランペット、[B]から2ndフルート)。いいバランスになるようにしたいところです。[B]から中音のオブリガート的な動きが加わりますが、メロディにも新たにフルート族が加わります。新たな要素は生かしていきたいところです。そして中音のオブリガートグループ(ファゴット、アルトクラ、テナーサックス、トロンボーン、ユーフオ)、ユニゾンになったりハーモニーになったりしますよね。それは意識に入れて演奏したいところです。ハーモニー、バランス良く。

 [C]、[D](第二マーチ)、『sub mf』がありますね。『sub p』ではないので、この強弱をどのくらいするのかはよく考えたいところです。もうひとつ強弱に注目してみると、[D]では3小節目にディミヌエンドがあって mf に落ちます。これはこのあとの第二マーチの終結を際立たせるための伏線的な捉え方も出来るように思います。この mf の部分([D]5小節目)、中音のオブリガートがなくなって、新たな要素にトランペットとグロッケン。これもていねいに浮き立たせたいところです。そしてハーモニーに注目してみると、[C]と[D]で違うのは、[D]10小節目でIII7(G7)、11小節目VIm(Cm)、12小節目♭VI(C♭)と来て、終止のシロク(ドミナント)につながる。このハーモニーの違いは必ず意識に入れて演奏したいところです。

「勇気の旗を掲げて」C9小節目~

「勇気の旗を掲げて」D9小節目~

楽譜、上段が[C]9小節目~、下段が[D]9小節目~

譜例

 [E]、Trioです。メロディと、それに付随するハーモニーパートのバランスに留意することなどは[A]と同様です。途中で加わってくる新たな要素、[F]1小節前からフルート、オーボエ、9小節目からのテナーサックスとホルン1、うまく生かしたいです。[G]1小節前からのブリッジ、これは[J]もまったく同じですね。オーケストレーションも強弱も。これをまったく同じように演奏するかどうか…。そして[H]。ここで初めて、楽器ごとに違う強弱が出てきました。ピッコロのソロは mp 、他は p 。これはでも、そう書いてなくても当然、ピッコロが、[I]からはフルートも、際立つように演奏します。

 [I]アウフタクトからはメロディの新たな要素としてオーボエ、ファゴット、エスクラ、トランペット1,2、ユーフォが加わります。[I]の8小節目からはサックスも。このサックスにはなぜか強弱が書いてありません。書き忘れとは考えにくいですね。なぜ書いてないのでしょうか。なにしろ新たな要素も生かしつつ、オーケストレーションは厚めなのですがピッコロフルートが際立つように作りたいですね。

 マーチの演奏ではメロディの歌い方に意識が向きがちかもしれませんが、まず打楽器、低音、ホルンのあとうち、これが大切です。推進力を持ってビートをきざめるように、これだけを取り出して合わせてみましょう。バスドラムを中心とした低音は特に、あとからついていくのではなく、逆に全体を引っ張っていく、推進力の源となるように演奏してください。とてもオーソドックスに書かれたマーチですので、基本に忠実に作っていかれるのがいいと思います。

トロンボーンパート解説

 それではトロンボーンパートを見てみましょう。ユニゾンとハーモニーの箇所を意識に置くこと、メロディのアウフタクトの支えの箇所など、これまで書いた通りです。たとえば[B]2小節前など、上のD音は4ポジションを使うことも考えてみるといい箇所もあります。オブリガートに時々出てくる3連符、たとえば[C]7小節目など、リズムは軽快に小気味良く。オブリガートなどは少しテンポを落としてレガートで練習してみるのもいいと思いますよ。

 [E]のハーモニーきざみ音型、2小節ごとではなく4小節、あるいは8小節とかのフレーズを意識に置くと音楽的に出来ると思います。メロディを聞いてみましょう。そして、2ndの動きの中のAs→G→F→G、[E]9小節目からのB→A→As→Gなど、ハーモニーの中のラインにも意識を向けてみましょう。[G]、[J]、『音型のリレー』に意識を向けて。[K]アウフタクトからサックス、トランペット、ユーフォとの旋律、マルカートともマエストーソともなにも書かれていません。どんなニュアンスで演奏するのか他パートとよく合わせてみてください。

 それでは、いい演奏になりますように。

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2024年度課題曲I
解説/福見 吉朗

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