サーカスハットマーチ/奥本伴在
全体解説
サーカスハットとはサーカス小屋という意味なのだそうですが、ほんとうにサーカスのような楽しくユーモアに富んだ曲ですね。またトリオでは全然違う楽想になり、変化にも富んだ曲です。よく感じて、楽しんで演奏してほしいと思います。さらにテンポの変化もあり、その運びもポイントになりそうですね。オーケストレーション、厚みや楽器の組み合わせを多様に変化させることで目まぐるしい場面変化をつくっています。ちなみにTutti率(全体に占めるTuttiの部分の割合)は42%と、やや少なめです。
この曲はマーチにつきもののあとうちがあまり出てきません。とはいえ一応、 楽譜倉庫 にあとうちハーモニー練習楽譜をアップしてあります。伴奏型も特長的で、少し慣れが必要かもしれませんね。ハーモニーも少しユニークです。そして、アーティキュレーションの指示がとてもたくさん書かれています。どういう意味、意図で書かれたものなのか、ジェネシスとはまた違った意味で、それをよく推し量ることが必要だと思います。たとえば16分音符にまで付いているスタッカート、『短く』というよりも、『クリアに』という感じで捉えた方がいいかもしれません。逆にパーカッションにはアーティキュレーションがあまり書かれていないので、ブルー・スプリングの解説でも書いた通り、同じ動きの管楽器のアーティキュレーションをチェックすることは必須だと思います。大編成ですがティンパニーはなく、マレットが2つ(シロフォンとグロッケン)効果的に使われているところも特長だと思います。
全体構成を見てみましょう。6小節のイントロ、前半がAABA、トリオ(トリオとは書いてありませんが…)がABA、そしてコーダ。3分程度のコンパクトなマーチですね。いちばん弱い強弱はp、いちばん強い強弱はff。ffは、イントロ5小節目、トリオのあたま、そしてラスト2小節の3ヶ所にしか書かれていません。さらに、場面変化の割には楽譜上で強弱はあまり変化しない印象。『あれっ、ここフォルテのままなんだ』という個所も…。ただし、たとえば旋律とそれ以外で違う強弱が書かれているところも少なくないので、その立体感、遠近感は生かしたいところですね。そして強弱は、ただ単に強くとか弱くではなくキャラクターとして捉えられるといいのかなと思います。
テンポの変化についても書いておきます。この曲、トリオ(Un poco meno mosso)でテンポが変わりますね。マーチというと一定のテンポで流れる音楽ですので、テンポを変えないままトリオのゆったり感を出すのに曲によっては苦労するのですが、この曲ではテンポを変えていいと言っているわけです。テンポ140から132。メトロノーム2目盛り分の微妙な、でも決して少なくない変化。前半とトリオの楽想が同じテンポでは折り合いがつかなかったのかもしれませんね。そうなると難しいのは、その運び。37小節のUn poco meno mossoでテンポが落ちるのですが、その前(36小節)の音型は、むしろどちらかというと駆け込みたくなるフレーズ(とはいえ正確に)。実質的には[D]の前の2小節間でテンポ132へ緩むというのが現実的なのかな、と思います。
そして[F](55)のアウフタクトでテンポ140に戻って、[G]2小節前(61)からallargando(だんだん遅くしつつだんだん強く)。ここには2つのやり方があると思います。まず、Grandiosoのテンポ94に向けて遅くするやり方、もうひとつはテンポ94よりももっとallargandoして、[G](63)からテンポ94に『戻す』やり方。特に後者の場合は、いくらスタッカート(とアクセント)が付いているとはいえ、テンポが落ちていけば8分音符の音価は長くなっていくことを忘れないで。そして[H]1小節前(70)のritは、前の8分音符が次(Tempo I)の4分音符になるようにritすれば自然に流れると思います。テンポ94の8分音符(テンポ188)が1小節間でテンポ140になるのですから、けっこう大きなritです。
少し部分を見ていきましょう。まず、[A](7)の旋律、装飾音符から上るところや2小節目3拍目のB音→C音のスラーなど、どこか遊び心を持って楽しんで出来るといいですね。旋律が金管楽器に移った[B](15)、トロンボーンはこの動き(装飾音、B→C)、グリッサンドにしても面白いと思います。が、それでは楽譜の指示に反するでしょうか…。コンサートピースとして演奏する時はぜひ遊んでみてください。
よく出てくるこまかい16分音符のリズム、タンギングを『Tu』としか思っていないと重くなると思います。シングルタンギングでやるのなら『TuDuDu』とか『TuRuRu』とか、いろいろ試してみてください。この曲に限らず、タンギングの言葉にもいろいろなバリエーションを。リピートで戻る前の32小節目3拍目、金管とフルート、つまりダブルタンギング出来る楽器は16分音符になっていて、リード楽器はシンコペーションになっていますね。シンコペーションのアクセントは16分音符に乗ってスピード感のある音で。
その次、33~34小節、譜例のように、同じ音型が2拍ずつずれて各楽器にリレーされていきますね。2グループ目(33小節3拍目)はアルトクラ、テナーサックス、ホルンと、少し人数が少ないのでバランスを取ってどの動きも浮き出るようにしてください。[F](55)にも、2拍ずつの音型のリレーがあります。こちらは、1回目(55)と2回目(57)で出てくる楽器の順番が変わっていますね。そして音型のリレーはイントロや[I](81)などにもあります。こちらは1小節ずつのリレーです。どの動きも浮き出るように。
そして打楽器を見てみると、[B]4小節目(18)のスネア、[C]1小節前(22)と[C]4小節目(26)のスネアとバスドラム、ここにだけクレシェンドがありますよね。これは何でしょうか。このクレシェンドは、そのあとのTuttiのフォルテを引き出すような役割を与えられているのだと思います。
トロンボーンパート解説
それではトロンボーンパートを見ていきましょう。まず、3rdトロンボーンはバスの仲間になっている個所がありますので意識に置いて。冒頭、[B]5~6小節(19~20)、そして[H](71)ですね。低音に厚みが欲しかった、あるいはトロンボーン(できればバストロンボーン)の音が欲しかったのだと思います。
いつも書きますが、たとえば[C](23)のアウフタクトからの旋律など、少しテンポを落としてレガートでも練習してください。大切ですよ。1カッコの終わり2小節(33~34)、音程難しいですよね。ゆっくり、よく音を耳でおぼえて。特に34小節。3拍目のCは6ポジションの使用も考えてみましょう。
[D](39)からの伴奏、ハーモニーを意識することはもちろん、フレーズで捉えてください。旋律がなにをやっているか聴いて寄り添うように。ただし旋律はmp、こちらはp。
[F](55)からの動き、特にallargandoの1小節前(60)、少し音程取りにくいですね。注意深く練習してください。チューナーを見るよりも、音をゆっくりピアノなどで弾いてみたりして、耳でおぼえてください。上のFの4ポジション、Bの5ポジションなど、替えポジションの可能性も検討してみましょう。
それでは、いい演奏になりますように。
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