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マーチ「ブルー・スプリング」/鈴木雅史

全体解説

 この曲はいわゆる典型的な課題曲スタイルのマーチですね。ブルー・スプリングとは『青春』をあらわしているのだそうです。青春、ほんとうは英語でなんていうのか調べてみたのですが、『adolescence(青年期)』が近いでしょうか…。イントロがあって、前半AABA、トリオで下属調(変ホ長調)に転調してAAB、そして最後のAはもう一度下属調(変イ長調)に転調し、コーダへ。Tutti率(全体に占めるTuttiの部分の割合)は約40%と、やや少なめですね。

 アーティキュレーションや強弱はわりあい細かく書かれていますが、課題曲マーチの例にもれず、打楽器にあまりアーティキュレーションが書かれていません。打楽器のみなさんは同じ動きの管楽器のアーティキュレーションは必ずチェックしましょう。なぜこれが大切なのかというと、管楽器は、たとえば2つの音にスラーがかかっていたら、1つめの音に自然に重心がかかるものです。もし打楽器がそれを知らずに叩いたら、合わなくなってしまいますよね。

 それから、4拍子のマーチですからその拍子感も意識に置いて。4拍子は単なる『強、弱、中強、弱』ではありません。ハーモニーではトニックがドミナントによって導かれるように、拍子も、4拍子であったら1拍目はその前の小節の4拍目により導かれるものだと思います。上がって、下がる。たとえば[A](5)から、低音をこんなふうにして全体を合わせてみるのも、拍子感を捉える練習になるかもしれません。

譜例

 メロディやオブリガートを捉える時に考えたいことに、長い音の表情があります。長い音には、緊張感が持続する、次につながって行く音と、そこで終結する、ゆるんで行く音とがあります。そのどちらなのかを考える。どちらでもない音はほとんどないと思います。いろいろ聴いて研究してみてください。これが正解というものはないと思いますが、これをバンドの中で決めて、同じ意識を持つ。

 強弱に目を向けてみると、曲全体を通して最も弱い強弱はmp、最も強い強弱はffですが、ffは[C](21)の旋律、[H](75)の旋律、それからTrioの頭(41)にしか書かれていませんね。

 その部分の中で山になるところはどこなのかに意識を置くことも大切だと思います。イントロの山は4小節目のあたまですね。そこに向かって行く意識。それから[A]のメロディでいったら、[B]1小節前(12)の1拍目が山。[D]の部分は[E]1小節前(32)の1拍目が山、[I]の部分は[J]2小節前(87)の1拍目が山だと思います。それを見極める決め手のひとつはハーモニーです。ドミナント(変ロ長調でいったらFのコード)は、しばしば山になります。

譜例

 ハーモニーを見ていくと、上の譜例のように、sus4から解決する個所がいくつも出てきます。たとえばイントロ4小節目だとFsus4→F(B音→A音)と解決する響き。その響きに意識を置いて、ゆっくり合わせて響きを確かめてみましょう。それから[A]の部分で意識してみて欲しいのは、[B]2小節前(11)、E♭m→Cdim。サブドミナントマイナーというのですが、ゆっくり流れの中で響きを感じてみてください。ここではG♭の音が特長音で大切です。おなじようにTrioにも、[G]の2小節前(57)にサブドミナントマイナー(A♭m)があります。

 いつも言っていることですが、ホルンやトロンボーンに出てくるあとうちもハーモニーであることを意識して。長い音にしてゆっくり合わせてハーモニーの響きをよく感じてみてください。 楽譜倉庫 にあとうちハーモニー練習楽譜をアップしてあります。低音楽器と一緒に合わせてハーモニーの響きをたしかめてみましょう。あとうちになった時にもそのハーモニーの響きが感じられるように。

 [C](21)を見てみると、調性はト短調になって、ハーモニーが1小節ごとにDm→Gm→Cと来て、次はFと行きそうなところ、4小節目はAsus→A。これは次の小節のDmを導き出すドミナントになっているのですね。そしてTrioの中間部[H]はやはりト短調。1小節目~2小節目(75~76)はI→V→I(Gm→D→Gm)、3小節目(77)はIV(Cm)からIdur(G)となって4小節目(78)G7→Cmから[I](79)Es-durのII(Fm)につながる。この4小節間、オーケストレーションは同じですね([C]と[H])。そして[I](79)は旋律の音域が[D]よりも少し上ってサックスが抜けてフルートとピッコロが入っています。新たな音色、意識に置きたいところ

 [I]5小節目(83)からは[D]5小節目(29)とオーケストレーションは同じですが、旋律の音域は上がってトランペットは実音Gまで出てきます。音域が目一杯使われていますので、配分や展開の組み立てにも気を配りたいところです。なにしろ全体を俯瞰して起承転結を見据え、それを全員で共有することが必要だと思います。

 [J](89)から変イ長調に転調します。強弱も[G](59)のmfからfに上っていますが、オーケストレーションの違いはどうでしょう。旋律からフルート族が抜けてトランペットが加わっています。もしかしたらトランペットに旋律を吹かせたいために転調させたのかもしれませんね。フルート属とエスクラには新たな要素が与えられています。そしてオブリガートはマルカート的なものに変わり、トロンボーンが加わっていますね。新たに加わったトランペットとトロンボーンの音色、生かしたいところです

 [L](107)、イントロと調性が違うだけで強弱はどちらもf、オーケストレーションも同じです。イントロと違ってドミナントに向かう3小節目(109)にはクレシェンドは置かれていませんが緊張感は高まり、4小節目(110)からもう一段上がって終結します。そんなふうにオーケストレーションを見ていくことも、サウンドの組み立てのヒントになると思います。

トロンボーンパート解説

 まずトロンボーンのパート譜を見てみると、やっていることは、ハーモニーか、あとうちか、オブリガート、時々旋律ですね。そしてお休みが少ないです。全体の3/4は音を出しています。音域もわりあい目一杯まで使われています。ちなみに課題曲では上のFまでという音域制限があります。ですので、しっかり吹くところと軽く吹くところ(手を抜くという意味ではなく)を見極めてペース配分を考えましょう。

 あとうちについて言うと、まず、上に書いたとおりハーモニーであるということ。ハーモニーを感じる練習は必ずしてみてください。長い音を声で歌って合わせてみることもいいと思います。そして軽く。あとうちというのは音が拍の裏にあるのですが、拍の真裏よりもほんの少し早く発音するような意識でいくと軽くなると思います。発音(タンギング)は軽く、音、響きでクリアになるように心がけてください。

 [C](21)アウフタクトからと[H](75)アウフタクトからのそれぞれ旋律、[J](89)からのオブリガート、どれも長い音、レガートにしてゆっくり合わせてみる練習をしてみてください。音程合わせにもなりますが、いちばんの効果は、フレーズや息の流れを感じること。マルカートで吹いた時も、そのフレーズ感と息の流れを持っていてください。[J]のオブリガートは、分散和音や跳躍で、音が変わっても同じポジションという個所がありますよね。同じポジションでも音が変われば同じ場所とは限りません。音をよく聴いて微妙な調節を。

 前奏、長い音のアクセントは低音やユーフォとニュアンスを合わせて。4小節目の音のしまい方は全体と合わせて大切に。[D](25)や[I](79)のそれぞれ1小節前、旋律の最後の音の長さやしまい方にも意識を向けて大切に。なにしろ終わりの音の長さやしまい方を意識することは大切です。また、上のD音は4ポジションの使用も検討してみてほしいところも少なくありません。

 それでは、いい演奏になりますように。

ご質問そのほかなにかありましたら、 コンタクト からメールをいただけるとさいわいです。

2022年度課題曲II
解説/福見 吉朗

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