やまがたふぁんたじぃ~吹奏楽のための~/杉浦邦弘
全体解説
山形県民謡をモチーフにしたファンタジーですね。出てくる民謡は、真室川音頭、最上川舟歌、花笠音頭、そして、籾すり唄ではないかと思います。こちらに採譜してみました。それぞれハ長調またはイ短調で書きました。こぶしや節回しなど歌い手によって少しずつ違うと思いますので、参考程度に見てください。
さて、民謡をモチーフとしてはいますが、どこか雅楽などにも通じるところがあるようにも感じるのです。響きのグラデーションであったり、立体感であったり。響きや、間、呼吸…、雅楽を聴いてみたりすると、なにかそういったものを感じ取るヒントになるかもしれません。遠近感や立体感は、もしかしたら日本人的な感性なのでしょうか。たとえば清少納言は枕草子の『笛は横笛』の中で、こんなふうに言っています。『遠くから聞こえてくる音色がだんだんと近づいてくるのも趣があるし、近くに聞こえていたのが遠のいていき、微か(かすか)にきこえるというのも、とても風情がある(口語訳)』
そして、響きの立体感やグラデーションばかりではなく、スコアを見ていくと、いろいろな『仕掛け』があります。それをどう表現するのか。そしてもちろん、和のものですからハーモニーの響きは4度や5度が中心です。その響きをよく身体に入れて。普通の3和音や4和音が出てくるところとの色合いの違いをよく感じて。さらに、打楽器がとても効果的に使われている個所も多いですね(作曲の杉浦氏は打楽器ですね)。全体を見通して、自分の役割をよく理解して演奏してください。スコアを見ることは必須ですね。
それでは最初から見ていきましょう。4小節目4拍目からのクラリネットと同じ響きが、ディミヌエンドとクレシェンドでサックスに移り変わっていく。色の変化、グラデーション。トランペットも加わって8小節目まで、色合いの変化をよく感じて。こういうグラデーションを表現するためには、どんなクレシェンドやディミヌエンドがふさわしいでしょうか。そして時折2ndクラリネットに出てくるdiv.は、クラリネットセクションの2つの声部を同じ人数バランスで欲しいための配慮のように見えます。
[11]から、全体p、3小節目(13)mp、5小節目(15)で全体fになりますが、そのmpとfの橋渡しをしているのがトロンボーンや低音の動きのクレシェンド。スコアを見ていくとわかりますが、この後にも同じような個所がいくつかあります。それを全員が理解して。[19]から『真室川音頭』の旋律、2小節目(20)のあたまに8分休符はありますが、もちろんフレーズの切れ目ではありませんよね。4小節フレーズを意識に置いて。[27]や[41]の旋律も同様です。[41]の低音旋律にはテヌートがありますね。どう表現しますか。『歌』であることを意識に置くと見えてくるように思います。35、36小節のS.D.のクレシェンド、どういう効果を狙っているのでしょうか。考えて。そして39小節目で初めて、普通の3和音(4和音)が現れます(E♭maj7、D7)。
46小節目からのトランペット旋律、最後の音の終わりの場所がそれぞれ違っています。でも、ディミヌエンドの行き先はどのパートもpp。ただ単に弱くなるだけではない効果(薄くなる、少なくなる)。49小節からのOb. Sax. Hrn. の長い音、たとえばこのあたりの響きも、いわゆる西洋音楽の捉え方に囚われていると見えてこないのかもしれません。雅楽の響き、笙のようでもあり、また、どこか龍笛のような感じもするのです。なにしろいろいろ聴いてイメージを広げてみてください。
52小節からテンポが緩んで『最上川舟歌』。調性はハ短調へ。響きはそれまで和の4度5度中心の響きであったものが、53小節からは西洋的な3和音4和音になります。響きの変化をよく感じて。56小節でクラリネット(2nd,3rd)とテナーサックスがホルンに加わりますが、強弱はそれまでと同じmp。音色の変化、厚みの変化。そして60小節目のコントラバス、これはいったい何でしょう。poco riten.を伴っているところがポイントで、どこか和楽器の鞨鼓のような感じもします。でも、それだったら打楽器に書いたでしょうか…。
63小節目のCのコード(第3音少なめ)で『最上川舟歌』が終結します。durになった響きを感じて。そして[64]からの4つの音(C、D、F、G)は『花笠音頭』(ヘ長調)の冒頭4音ですね。そしてここにも、[11]であったような低音楽器による強弱の橋渡しがありますよ。[78]からは『花笠音頭』の音列が対位法的に使われて展開していきます。114小節からのそれぞれの3つの動きのアクセントの掛け合い、バランスよく効果的に聞かせたいところです。[120]、全体が突然ユニゾンになりますが、その一方でのトロンボーンとスネアのそれぞれクレシェンドの動きも効果的に聞かせたいところ。トロンボーンはかなり出さないと聞こえないでしょうが、響きも大切に。そして、[128]からは『籾すり唄』ではないかと思うのですが…
[167]から『花笠音頭』がはっきりと出てきてクライマックスへ。168小節から169小節へかけてホルンと一緒にトランペットにもグリッサンドがあります。指も使って下の実音C、Dあたりの音を入れつつ、上った音がアクセント的になるニュアンスをホルンと合わせるといいと教えていただきました。そして、トランペット奏者の荻原明氏が実演してくださいました。ありがとうございます。[175]から[183]にかけてpからfへ全体がクレシェンドしていきますが、180小節目に入るトランペットはpです(他は概ねmp~mf)。そしてトランペットにのみ、松葉のクレシェンド。より遠くからやって来て追いつく、全体で音色の変化を伴うクレシェンド。これも、スコアを見なければ気づけない仕掛けですね。それから、197小節のティンパニー、198小節のスネア、それぞれのffpは、196小節のTuttiと対等に欲しいところです。
トロンボーンパート解説
では、トロンボーンパートを簡単に解説していきます。まず書いた通り、和の響きですので完全4度や完全5度が中心になります。響きをつくる上でその点を意識して。そして、時々出てくる、普通の西洋的な3和音、4和音の個所、たとえば39~40小節、ここはHrn.Eup.低音などと合わせてみてください、53~55小節、ここもEup.や低音などと合わせてみてください。53小節は開離、55小節は密集。ここだけで合わせると普通の響き(A♭、Fm7)ですが、ここにクラリネットに伸びているGが加わって…
3rdトロンホーンは、低音群との共同作業の部分と内声(和音の中の音)の部分とがありますから、それをわかって演奏してください。吹き方も変わってきますよ。たとえば例をあげると、[167]からは低音群の仲間、[175]からは内声ですね。[128]からの1stトロンボーンはTrp.Hrn.と合わせて響きをよく感じてみてください。[167]からのハーモニーも低音群などとも一緒に合わせて響きを感じてみてください。ここも西洋的なハーモニーです。
下のC音、F管と決めつけず6ポジションの使用も考えてみましょう。また、上のD音は4ポジションの使用を検討してもいい個所もあります。
それでは、いい演奏になりますように。
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