スケルツァンド/江原大介
全体解説
2009年の課題曲5『躍動する魂』の江原大介さん、課題曲2度目の登場です。曲想は一見わかりやすいですが、緻密な仕掛けがたくさんあります。ぜひ自分のパート譜だけではなくスコアもよく読んで、曲に対する理解を深めてください。江原さんは、「サーカスのような曲」だと言われました。軽快に進行して行くけれど、その中にはいろいろなかけ合いや連携プレーがある。そんなところが、まるでサーカスの出しものみたいですね。
この曲を構成する要素のひとつが、増4度(減5度)音程。冒頭2→3小節のB♭→E、7→8小節のF♭→B♭など、上げたらきりがないほどの増4度進行。[F]5小節目(76)からや[H]7小節目(103)など特にですね。こんなふうに、ハーモニーの進行が少し変わっているので、その響きをよく身体に入れること。『響きの譜読み』が大切です。
さて、増4度といえば長2度が3つ重なった音程ですが、この曲の2つのモチーフも、3つの音から出来ています。1つめのモチーフは、冒頭2小節目のクラリネットにまず出てくる8分音符16分音符16分音符という形。こちらはなめらかな感じ。そして2つめのモチーフは、後半[E](64)から出てくる16分音符16分音符8分音符という形。こちらはギャロップのよう。この2つのモチーフのキャラクターの対比、出したいですね。3といえば、冒頭2小節は3拍子。『3』にこだわりがあるのかも、とは江原さんの言葉。2小節目1拍目の8分音符2つを強拍にしたかったという意図も…
さて、曲の仕掛けを見ていくと…、まず2小節目3拍目にクラリネットに出てきたモチーフが、フルート族とアルトサックス→テナーバリトンサックス→ユーフォニアム、5小節目からクラリネットとサックスのかけ合い、8小節目はそこにトランペットも加わって…。それぞれ流れに乗ってクリアに。[B]2小節目4拍目からのクラリネット→サックスの16分音符のつながりも、きれいにつなぎたい。[E]3~4小節(66~67)の強弱が楽器によってずらしてあったり、[F]2小節前からコントラバスと金管低音が順番に重なっていったり、まだまだあるそういういろんな『仕掛け』をわかっておきたいですね。
この曲、ほとんどの音になんらかのアーティキュレーションが書かれています。これ、作曲家さんからのメッセージ。どんな音が欲しくて書かれたものなのか、よくイメージして。そして、たとえばおんなじアーティキュレーションでも同じに演奏するとは限らない。たとえばフルート、オーボエ、アルトサックス、[C]2小節前(36)の4拍目裏と1小節前(37)の3拍目のそれぞれ8分音符にスタッカートがありますね。2小節前のスタッカートは、[C]5小節前(33)4拍目から始まる柔らかい音楽の中にあるので少しソフトに、1小節前のスタッカートは、ちょうどその柔らかい音楽が元の軽快な音楽に切り替わる拍上にあるので少し硬くというふうに、イメージを持って。
[A](10)以降出てくる、8分音符2つにスラーがかかった2つめにスタッカートがついた形は、はっきりスタッカートで硬く。[B]7小節目(28)木管のスタッカートがない形は、『ひらひらした感じ』なのだそう。ちゃんと吹き分けて。中間部[D](48)のクラリネットとサックス伴奏型4分音符のテヌートスタッカートは、弦楽器のようなイメージなのだそうです。それから、打楽器のみなさん、同じ動きの管楽器のアーティキュレーションを把握しておきましょう。
さて、[A](10)からの動き、4分音符に少し重心を置くと立体的になるかもしれませんね。[B](22)にフルート、オーボエ、クラリネットとアルトサックスに出てくるテーマ、たとえば2小節目あたまを山にすると立体感が出るかもしれません。中間部[D]、メロディーのアルトサックス、そのあとのクラリネット、それからトランペット、複数で吹いてもいいけれどソロにしても良いそうです。楽譜に『solo』と書いてしまうと必ずソロでしなければならなくなってしまうので、演奏者の自由を残したということでしょうね。
[G]4小節前(84)、ここだけ3拍子になって、しかもわざわざ『senza rit.』とあります。これは…、ホールに残った1拍目8分音符の残響が消えないうちに次に入りたかったという時間計算的な意図なのだそうです。そして3小節前(85)は『Moderatoの音』で。[G](88)から[B]のテーマが戻ってきますが、前との違いはピッコロとグロッケンが入ること。印象的に。[I]5小節前(105)からはクレッシェンドではなく階段で。[I]5~6小節目(114~115)の表拍と裏拍は対等に。
トロンボーンパート解説
それではトロンボーンパートです。まず、序奏と最後に出てくるグリッサンド、途中の音も全部しっかり鳴らして。遠いポジション音程注意。最後の7ポジションは大変なので届かなければヒモを使って。減5度音程はこの曲の特長なので楽譜通りにやりたいところ。そしてそのあといちばん最後の音、Fは6ポジション、BはF管の3ポジション(といってもほぼ4ポジションぐらい)を使ってもいいと思います。そして、書いたように、この曲はハーモニーの進行が少し変わっているので、しっかり音をとって。3rdに出てくる下のH(C♭)とか、5ポジションの音とか、音程注意。手じゃなくて耳でおぼえて。
[A]2、4小節(11,13)の3rd、この動き、ほかにはテューバとコントラバスだけ。少ない。少し出しぎみで、ちゃんと共同作業。3~4小節目(12~13)の1stのDは4ポジションの使用も考えて。[A]4小節目(13)の2nd、下がった音はDではなくEsです。連盟から訂正が出ています(トランペット2ndも同様に)。[B](22)、[C](38)、[G](88)などのスタッカート4分音符、低音群と合わせて。形、響き。[D]9小節目(56)からの伴奏型、少しソフトな感じ。[E]2小節目(65)3拍目裏からの動きはトロンボーンのほかはユーフォニアムとファゴットだけ。ちゃんと流れに乗って。ポイントは、その前の休符も気持ちや身体がスイッチオンのままで。でも響くいい音で。[F]3小節目(74)の8分音符のユニゾン、その前のトランペットなどを受けてしっかり印象的に。[I]7小節目(116)からの3rd、低音群との2分音符Bのユニゾン、よく響く音で堂々と。
それでは、いいステージになりますように。