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スペインの市場で/山本雅一

全体解説

 この曲は、作曲された山本さんがスペインの街ウエルバを訪れた時の印象を書かれたのだそうですが、ウエルバはスペインの南、アンダルシア州の港町。ヨーロッパの中でもいちばん南に位置する街です。コロンブスの史跡があったりするのだそうです。そんな街の活気に溢れた市場の印象を曲にされたのですね。

 スペインを題材とした様々な名作からも「歌い回し」や「リズム感」を予習するのがオススメだと山本さんも書かれかています。ラヴェルのスペイン狂詩曲やファリャの音楽(三角帽子など)は、ぜひ聴いておきたいところです。ビゼーのカルメンなども…。

 中間部がハバネラですが、ハバネラは元々はハイチからキューバに渡った舞曲のリズム。キューバはラテンアメリカ、カリブ海に位置する島国。そこから船乗りによってスペインに輸入され、人気になったんですね。伴奏の16分音符をほんの少しためる感じでいくとハバネラらしさが出ると思います。いろいろ聴いて研究してみてください。もちろんテンポはキープした上で。

 3/4と6/8の拍子感、大切にしたいところです。どちらで感じるかによって音楽が変わってきます。打楽器も大切ですね。

 さて、この曲、ハーモニーが特徴的です。5小節目から1拍ずつ、F,E♭,D,Cm7,B♭M7と来て、その3拍目からE♭M7,Dm7,Cm7,B♭m7…。2度ずつ下がっていく進行。[C]8小節目(43)からは1拍ずつ、E♭/F,B♭m7,E♭9,A♭7,D♭7,Gmと、5度下がる(4度上がる)進行。[D]2小節前(45)から1拍ずつ、B7♯9,C7♯9,C♯7♯9,D7♯9と、半音ずつ上がる進行。ハーモニーはめまぐるしく動きます。また、コードネーム的に言うと、♯9の音が入っていたり♭5だったり♯1113が入っていたりと、ちょっと複雑だったりします。もちろん単純なわかりやすいところもあります。

 ハーモニーを考えたとき、特にこの曲はそうだと思いますが、横の流れ(ハーモニーの連結という意味でもそれぞれの声部の流れという意味でも)が大切だと思うのです。声部の進行、それぞれの音の動きによってハーモニーが形作られている。なので、それぞれの声部(パート)のソルフェージュが大切です。たとえば、自分の音、自分の動きを、声でも歌えるようにする。

 それと同時に、こういう曲では『響きの譜読み』が大切だと思います。テンポを、各拍のハーモニーが感じられるところまで落として、響きとその移り変わりをよく聴いて身体に入れる。自分の音だけしか意識に入っていないで吹くのと、ひとりひとりが全体のハーモニーの響きをちゃんと身体に入れて吹くのとでは、出てくる音は全然違います。特にこの曲ではそれが大切なように思います。リズムや拍子感ももちろん大切なのですけども…。

トロンボーンパート解説

 さて、トロンボーンパートを見て行きましょう。全体的には舞曲の伴奏という感じなので、そのリズム感をよく把握すること。アーティキュレーションの吹き分けというか、音型をよく吹き分けることなどが大切。書いたように、ハーモニーをよく感じた上で吹くことも大切です。

 [A]4小節前(10)からの形、拍子を変えたりして何度も出てきますが、スタッカートを意識しすぎて短くなりすぎないようハーモニーが感じられる長さで。感覚的には、短く、ではなくて『つぶがはっきり聞こえる』くらいの意識でいいと思います。テンポ的にシングルタンギングでやるかダブルタンギングでやるか、ちょっと微妙なところかもしれません。統一する必要まではないと思いますが、ダブルでやるのなら『TuKuTuKu』だと短く硬くなりすぎるかもしれませんね。ちょっと『DuGuDuGu』に近い感じでいくと軽くなると思います。3/4で出てきた時は2拍目のあたまが、8/6で出てきた時は最後の8分音符が、それぞれ重くならないように。重心は各小節1拍目の8分休符にあると思って、そのエネルギーで行く感じ。全体に軽く。

 [B]9小節目(30)からのハーモニー、3rdは2小節異名同音ですが、1小節目は根音(G♭/A♭)、2小節目は第3音(D/E)ですので、厳密には少し動かす必要があると思います。低音ともゆっくり合わせてみましょう。サックスもいますので忘れないで。

 [D]3小節目(49)のハーモニー、低音楽器とトロンボーンとクラリネットでD7ですが、フルートに♭5(As)と♯9(F)があります。響きをよく感じて。[D]7~8小節目(53~54)は、トロンボーンだけだとハーモニーが見えてきません。低音楽器も入ってハーモニーが完成します。B7♯9です。響きをよく感じて。

 ハバネラに入って[E]11~12小節(73~74)、アーティキュレーションの形やニュアンス、しゃべり方を、よくそろえて。同様に[G](88)も。

 [F](78)から、クラ、サックス、ホルン、ユーフォ(4小節目からはフルート、オーボエも)とともにsoliですが、ほかのパートにはフレーズスラーが書いてあるのに、トロンボーンにはなぜか『legato』と書いてあるだけです。もちろん他パートのスラーを把握しておきます。フレーズを感じて。8小節目(85)2拍目からの1stはホルンにつける感じで。

 [I](115)から、自然なシンコペーションのニュアンスを研究してみてください。そしてもちろんハーモニーを大切に。

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