マーチ「プロヴァンスの風」/田坂直樹
全体解説
作曲の田坂さんも書かれていますが,この曲,スペインから始まります。トリオでプロヴァンスに行って,またスペインに戻ってくる。プロヴァンスというのはフランス南東部,イタリア国境にも近い地中海に面した地方の名ですね。ちなみに語源は『プロウィンキア』。ラテン語で『属領』という意味。古代,ローマの最初の属領なのだそうです。
さて,この曲も,課題曲によくある4拍子のマーチ。テンポの指定は132ca.ですが,前半やトリオ後半のスペインの部分はそれよりも速くしたくなり,トリオ前半プロヴァンスの部分はそれよりも遅くしたくなるかもしれません。が,マーチですのでやはり最初から最後まで1本筋が通っている必要がある。解釈はいろいろだとは思いますが,同じテンポの中でスペインの躍動感とプロヴァンスのゆったり感を表現しなければならないところが,まずひとつの難しさかもしれません。
そしてこの曲,ニ短調からトリオで変イ長調という遠隔調に転調します。このあたりのことは以前ブログに書いたので,そちらを読んでみてください。ブログ『「プロヴァンスの風」の…』
もちろんマーチなのですが,この曲では特に,旋律が歌い込めないと説得力のある演奏になりません。フレーズを考える,その中の重心をみつけるといったことも大切なのですが,ひとつポイントは,長い音。長い音には,次に向かう音と,そこでおさまる音とがあります。それを統一して,ちゃんと意識において歌い込むこと。次に向かうべき音で力が抜けてしまっては歌えませんよね。
もうひとつ,トリオの旋律は特にそうなのですが,跳躍のレガートを美しくつなぎたい。上がった音がとんがってしまっては興ざめですね。美しく演奏するためのポイントは,上がった音を見るのではなくて,跳躍する前の下の音をしっかりと鳴らすこと。それから符点リズムの捉え方もポイントのひとつですね。
特にホルンにたくさん出てくるあとうち,これもただの刻みではなくて,その1つ1つがハーモニーです。そのハーモニーの響き,流れをよく感じて。 楽譜倉庫 に『あとうちハーモニー練習楽譜』を置いてあるので活用してください。
打楽器について…。スコアを必ず見て,同じ動きや仲間の管楽器をチェック。その管楽器のアーティキュレーションも把握しておきましょう。ティンパニー,半音でぶつかりますからマフリングが重要なことは言うまでもありません。スネアのリムショット,いつもよりほんの少し手前側を上げるようにセッティングするといいかもしれません。もちろん人によりますが…。トリオのトライアングル,伴奏系のスタッカートのニュアンスにうまく合わせて。タンバリンのトレモロもよく練習して下さい。裏技として,お札を数える時に指にはめるゴム,あれを使うとやりやすいかもしれません。
少し細かく見ていきましょう。イントロ,冒頭と2小節目1拍目の低音群の音の長さ,金管群やサックスのリズムとの関係,そして2小節目あたまと3小節目あたまはトロンボーンの音の長さも低音に合わせて,さらにどのセクションも3小節目のアクセントを決めること。連符がきれいに決まることはもちろん,それが2小節目あたまのリズムをも左右します。そして全体で一体感を持ってビートが出る…。何度か出てくるこのパターン,なかなか手強いと言わざるをえません。
[A](5)からや[H]の9小節目(75)からのクラリネットだけの旋律,しっかり響かせてうまくバランスを取って。そしてトリオもですが,旋律に途中から加わってくる楽器,その色合いの変化が伝わるようにしたいです。[B](13),[E](37),オブリガートや低音に出てくるD→Cis→C→Hのライン,それからトリオに何度か出てくるF→E→Es→D→Desのライン,大切にしたいです。
[C]5小節目(25)アウフタクトからの旋律の動き,F→E→D,F→E→Cのラインを,1拍遅れてオブリガートが追いかける。その両者は同じ音を同時には鳴らさないのだけれど,人間の耳はピッチをおぼえていますから,仮にその両者がユニゾンで吹いても合わないと心地良くない。オーボエ,ユーフォ,1stクラ,テナーサックスで,このラインをユニゾンで合わせてみてください。
[F]2小節目(46)のトランペットとトロンボーンそれぞれ3rd,クリアに,そしてディミヌエンドするのだけれど音の終わりはきちんと意識して。トリオ旋律のアウフタクトに重なってはいけません。でも間が空いてもいけない。4拍目で入れ替わる感をきちんと。
[I](87)は,3連符の形と,16分音符の形(8分音符16分休符16分音符)をきちんと吹き分けることがポイント。そして音の長さ,終わりの処理の統一。尤も,音の長さや終わりをきちんと意識することは,ここに限らず大切ですよ。
トロンボーンパート解説
ではトロンボーンパートを見ていきましょう。イントロやエンディングのグリッサンドはスピードをそろえて,途中の音もちゃんと鳴らす意識。[A]5小節目(9)からのハーモニー,クレッシェンドの行き先は[A]6小節目(10)4拍目の8分音符。その意識を持って。そしてさらに次へ。
[C](21),[D](29)の旋律や,[E](37),[J](95)のオブリガートはレガートやテヌートでも練習してください。[C]3小節目(23)2拍目のCは6ポジションで。マルカートでクリアに演奏しますが,ラインを意識して,歌にしてくださいね。ただ元気がいいだけではなく,どこかゆったり感,余裕があるといいです。
[F]2小節目(46)の3rdトロンボーン,ブレスや8分休符を意識しすぎると,かえってうまくいかなくなると思います。ぼくなら動かないでその前から流れの中にいる感じで入ります。
[H]1小節前(66)からのハーモニー,低音群とよく合わせて下さい。声で歌っても合わせてみましょう。1stは音が高いですが,歌を忘れず音色やわらかく。8分音符の動きのところは少し出る感じがいいと思います。
[I]3小節目(89)のような忙しい動きは特に,右手首を柔軟にすることがポイント。スライドを強く握ってしまうとできません。右手指はひっかけているだけ。