マーチ「春の道を歩こう」/佐藤邦宏
全体解説
春という季節は,新しい仲間との出会いもあり,大切な方々との別れもあり,人によっては環境がまったく変わってしまったり…。そういう春という季節を進んでいく人たちを応援したい…。作曲の佐藤さんのエッセイ要約です。イメージをつくる助けになると思います。
さて,この曲は課題曲マーチとしてはとてもオーソドックスですね。教科書通りという感じすらします。課題曲に多く見られる4拍子のマーチ。前奏が8小節,Aのメロディが8小節,前半はAABAで,Bの12小節は低音の4小節,木管の4小節,金管とサックスからTuttiへの4小節。トリオは2小節の経過句のあと,16小節のメロディ。ただ,よくあるAABAではなく,前半Aが1回だけのABAの形なので演奏時間も短いです。Bの部分は8小節。そしてコーダが5小節。とてもシンプルです。
小編成で書かれているので打楽器は4パート。ティンパニーはオプションにもありません。打楽器の使われ方もオーソドックス。ただ,トリオ前半のあとうちにタンバリンが使われています。2007年課題曲の『マーチブルースカイ』を思い出しますが,タンバリンという楽器,どんな角度にセットするかで鳴り方が変わってきます。工夫してみてください。皮が45度くらいの角度になるのがいちばんいいと思います。手持ちで叩くのであれば,左手でしっかりグリップして右手は『押す』イメージで叩くといいと思います。
打楽器についてもう少し…。マレットはグロッケンだけですが,マレットに限らず,管楽器とおなじ動きをするところを把握しておくことは当然です。さらに,その管楽器のアーティキュレーション,スラーなのかマルカートなのか,それをちゃんと把握して演奏することが大切ですね。スコアを見て必ずチェックを。
さて,マーチは元々は行進のための音楽ですから,インテンポが基本。テンポの揺れ,リズムの揺れ,そういうものがないようにしたい。コンサートマーチですから場面の変化,色の変化,それは当然つくりたい。でも,そこで段差ができたりしない,最初から最後まで1本筋の通った演奏にしたい。
たとえば冒頭2小節目にあるような『ターンタタンタン』という音型(符点8分音符+16分音符+8分音符+8分音符)。何度か出てきます。旋律やオブリガートの中にもたくさん出てきます。このリズム,つまったり転んだりしやすいですよね。どうすればいいのか…。符点8分音符が持っているエネルギーをちゃんと感じることが,ひとつのポイントだと思います。符点8分音符は,普通の8分音符よりもエネルギーを持っている。重心といってもいい。それをちゃんと感じる。
[G]の5,6小節目(67,68)3拍目のように8分音符が2つ並んだ音型も,2つがくっつきやすいですよね。これは1つ1つしっかり決める意識を持つとうまくいくと思います。もちろんちゃんと8分音符単位のカウントを持って演奏することも重要。なにしろリズムやテンポが乱れるのは,おそらくなにかの意識,捉え方が足りないからなんですね。だから無理矢理型に押し込んで矯正するのではなくて,その足りない意識をつかんでいく。音楽的につくっていく。
作曲者も書かれていますが,旋律やオブリガートの中に跳躍がよく出てきます。最初から跳躍の上の音が視界(意識)に入ってしまうと,かえってきれいにできないと思います。跳躍する前の下の音をしっかり鳴らす,次の音ではなくて,今奏でている音に意識を向ける。
高音木管楽器は特に,連符がたくさん出てきますよね。これは連符に限りませんが,方向性を持つ。この音型はどこに向かっていくのか,どこをめざしていくのか,その方向性を持って。説得力が全然変わります。ただし,インテンポで。
ホルンやトロンボーンに出てくるあとうち,これ,単なるリズムの刻みではありません。そのひとつひとつがハーモニーです。ハーモニーと,その流れ,これを忘れないでください。長い音にしてハーモニーの響きや流れを確認して下さいね。 楽譜倉庫 に『あとうちハーモニー練習楽譜』を置いてあるので活用してください。
トロンボーンパート解説
さて,それではトロンボーンパートを見ていきましょう。ちなみにこの曲を作曲された佐藤邦宏さんはトロンボーンなのですよね。
7小節目,sub.mpのハーモニー,美しく決めたいです。オルガンのように。1stのC音は低くなりがち。3rdのF音との五度がきれいに合うように。そして,自分の音,人の音,ではなく,自分の音も含めたトロンボーンパートの響きに意識を向けます。
[A](9)からのあとうちは,そのハーモニーの響きをそのまま8分音符に切るようなイメージで。あとうちは,1つ1つの音に息を入れるのではなく,ずっと息が流れているような感じ。8分休符の間も支えは保ったままで。
[C](25)アウフタクトからの低音群の旋律,こういうマルカートの動きも,少しゆっくりにして,いちど全部テヌートまたはレガートにして練習してみましょう。息の流れはそのレガートの時と同じ感じで。ちゃんとフレーズを感じて。[C]3小節目(27),16分音付のF音は6ポジションがおすすめです。
Trio(45),16分音符まできれいにハーモニーさせたいですね。タンギングが強すぎると16分音符が音になりません。とても軽く。ダブルでやるのなら『TuKuTu』だと強すぎるので,少し『DuGuDu』に近い感じ。
[E]7小節目(53)からのハーモニー,声で歌ってもハモるといいですね。それができれば楽器でも合うと思います。1st,54小節,58小節のD音は4ポジションも検討してみましょう。3rd,53小節のF音は6ポジションでもいいと思います。1ポジションで吹くのなら,1→5の動きがきれいにつながるように。コツは,いかに右手をリラックスするか。
[G](63)アウフタクトからの旋律,[H](71)からのオブリガートなど,やはり[C]の部分と同様,レガートでも練習して下さい。1stと2nd,[H]2小節前(69),16分音符のD音は4ポジションで。