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「斎太郎節」の主題による幻想

全体解説

 この曲は,宮城県地方の民謡を題材にしています。一見(一聞)叙情的で物悲しい印象を受けるかもしれませんが,作曲の合田さんも書かれているように,この曲はカツオ漁の大漁を祝う『大漁唄』なのです。ぜひ歌詞と,その意味を調べてみましょう。

 さて,この曲の大きな特徴のひとつがハーモニーです。普通の三和音ではないところがたくさんあります。たとえば『sus4』。冒頭のハーモニーがすでにそうですね。Asus4。構成音はラ, , ミです。sus4という和音は4の音が3へ(レ→ド)と動いてメジャーまたはマイナーに解決するのが通常なんですが(課題曲4に出てきますね),この曲でのsus4は多くの箇所でそうではありません(解決しない)。また,中間部([G]から)では,2の音が加わった短三和音が出てきます。たとえば[G]3小節目はAmにH音が入った,ラ,,ド,ミの和音。また,第3音がない『空五度』のハーモニーも出てきますね。[C]4,5,8小節目(48,49,52),[D]2小節前(59),[I]3小節前(155)など。

 sus4は,完全5度と完全4度でできたハーモニー,空五度は完全五度だけのハーモニーですね。つまりハーモニーに4度5度の響きが多く用いられています。これらのハーモニーが狙っているのは,『和』の響きです。その響きをしっかり感じて演奏することがとても大切です。ゆっくり合わせてハーモニーの響きを感じる,確かめる,響きの譜読みは必須ですね。

 具体的に見ていきましょう。[A](4)から,低音木管の半音下降進行,それとクラリネット2番3番が合わさってできるハーモニー。同様に,[B]7小節前(18)から。ここでは楽器が増えますね。[C]9小節目(53)から,[D]9小節目(69)からも同様ですね。後半,イ短調になって[H]9小節目(150)から。これらのハーモニーの流れをまず,よく感じてみましょう。

 [E](77)から4小節間,ハーモニーの中のA→H→C→Hの動き,ハーモニーの移り変わり。後半,調性が変わって[I](158)から4小節間(E→Fis→G→Fis),同じく[J](174)から4小節間。そのハーモニーの変化をよく感じてみましょう。

 [G]2小節前(109)から。中間部につながる部分ですが,ここはDsus4。トランペット2番と3番のG音が1小節前(110)でF音に解決しているように見えますが,2ndホルンはG音のままです。ですので,完全にDmには解決しない。sus4が残っているわけです。そして,フェルマータは2小節前(109)に付いていることに注意。トランペットの4分音符G→Fは,解決するというよりも[G]あたまのEにつながる経過音と捉える。ホルン1stとトロンボーン1stのE音につなぐ,受け渡す意識で演奏してみましょう。どう捉えるのかで演奏が変わってきますね。

 [G](111)はEsus4。これは次の小節でEメジャーに解決しますね。[G]2小節前(109)から続いてきた(楽器は変わりますが)A音が,ここでGisに解決,そして3小節目のAマイナーにつながっていくわけです。ここまでの流れ,作りどころですね。

 中間部,調性がイ短調に変わって[G]2小節目(113)。ここは,先に書いたとおりAmに2の音が入っています(ラ,,ド,ミ)。まず,その響きをよく感じて。その上で,ファゴットとバスクラの半音下降音型,それを含めたハーモニーの流れ,移り変わりを感じてみる。ハ短調に調性が変わって[G]13小節目(123)からも同様。それから,[G]21小節目(131)の,A♭mに2の音)が入った響き。[H]5小節前(137)の,Eメジャーに♯4Ais)が入った響き。これも,ハーモニーをよく感じてみましょう。

 自分の音だけではなく,全体のハーモニーをよく感じる。その中での自分の音。これが大切です。そして,構成音のバランスも考えて書かれています。たとえばいちばん最後の音はAsus4なんですが,4の音(D音)はホルンの2nd,4thだけなんですね。隠し味的に入っているんです。

 ハーモニーの話が長くなりましたが,テンポの速い部分で全体をけん引するのが打楽器,特にスネアドラムの役割は大きいですね。これを,締太鼓のイメージでスネアオフでやってはダメなのか,という声を聞きました。楽譜には『Snare Drum』と書いてあるのでスネアオフでやってはいけないとは思うのですが,でも,イメージは和太鼓か締太鼓のようでいいと思います。平坦になるのではなく,和太鼓のビート感が出るといいと思います。

トロンボーンパート解説

 トロンボーンパートを見ていきましょう。冒頭3rdトロンボーンの動き,もちろん低音群と仲良くしますが,テヌートでも練習してみることをお薦めします。息のつながりや支え,フレーズ感。

 [B](25)からの速い部分。それぞれを長い音にして,ハーモニーを合わせてみる。ハーモニーの流れを感じてみる。確認してみることをおすすめします。

 [E](77)からのオブリガート,もちろんアルトクラ,ユーフォ,テナーサックスと合わせてみる。彼らは16分音符4つになっているところがありますね。3小節目(79),16分音符D音は4ポジションも試してみましょう。どちらを使うかはお好みで。16分音符ははっきり吹きますが,でもフレーズを感じて。右手をリラックスさせて。そのためには…,スライドを動かすのに使う関節の動きはどれだけありますか? その全部を自由にする。全部使わなければならないのではなくて,全部を,自由にしておく。

 [G](111),1st,先に書いたとおり,このE音は2nd,3rdトランペットから受け取る意識で吹くといいと思います。

 [I](158)は[E]と同様ですが,調性がイ短調に変わって音が低くなり難しくなりました。1小節目2拍目裏のCは,F管ではなく6ポジションも試してみましょう。さらに裏ワザで,最初のA音をF管4ポジション(場所的にはほぼ通常の5ポジション)を使う手もあります。どれを使うかはお好みで。8小節目(165)のB音は5ポジション(ほんの少し近め)も検討してみましょう。

 [J]からも同様ですが強弱がffに上がります。ベルアップしたくなるかもしれませんが,テナーサックスやアルトクラ,特にユーフォとのバランス(音量だけではなく音色的にも)などを考えると,ベルアップしない方がいいかもしれませんね。もしするのなら,ホール練習などで試してみてから。[K](186)1拍前の『sub mf』,きちんと決めたいです。が,その前のG音の長さは保って。

 最後のグリッサンド,決めどころですね。スライドで少し下げつつリップグリッサンドのようにするのですが,グリッサンドの途中も全部鳴らしてつなぐ意識で吹くといいと思います。アクセントはしっかり息で。

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