最果ての城のゼビア/中西英介
全体解説
この曲は作曲者の中西さんも書いておられるように,映画の予告編のようにいろいろな場面が次から次へと出てくる曲。ですので当然,場面の変化,移り変わり,色合いがきちんと出せることが1つのポイント。ハーモニー的には,普通の3和音のところがあったり,空五度(第三音抜き)のところがあったり,さらに複雑な響きの箇所があったりします。それらのさまざまなハーモニーの響きを感じて演奏することも重要。
さらに技術的には,なんといっても6/8系の拍子とリズム。おなじ6/8でも,『勇気のトビラ』より数段難しいと思います。具体的には符点8分+16分+8分の,『ターンタタン』リズムの攻略。ポイントは,タンギングは『Tu』ばかりとは限らないということ。『Du』とか『Zu』とか『Ru』とか,またそれらの中間とか,いろいろある。声に出して何度も言葉で言ってみる。『Tu』の意識しかないと,きっと重くなりますよね。それからもう1点,あたまの符点8分音符をテヌートにして,あるいは全ての音をテヌートにして練習してみることもオススメします。
そして,1小節に4分音符3つのヘミオラ系リズム攻略。これも重要ですね。6/8の1小節を2拍子で取ったり6拍子で取ったり,その2つのカウントが両方ある感じ。2拍子で,また,テンポを落として6拍子で,手拍子しながら歌ってみる。これも有効です。歌えないものは吹けませんものね。
さて,冒頭D音のユニゾンに始まって,2小節目はDとAの空五度。スコアを見ると,低音はDですがバリトンサックスはA。ピッコロはDですがオーボエはA。オーボエは音のよく通る楽器ですので,ハーモニーの中でもより聴かせたい音やラインを書く作家さんが多いと思います。ですのでこのオーケストレーションからは,D音とA音を対等に聴かせたいのだな,と感じ取れると思います。そしてその箇所,ホルンの,どこか『和』の印象がある動きも,歌い方要研究です。書いてある強弱やアーティキュレーションにばかり拘るのではなく…。
ハーモニーの響きを確かめてほしい箇所,いくつか上げてみます。たとえば7小節目3拍目。低音A,中にFがあって,E♭の長三和音が上に乗っている形。[A]2小節前(14)後半。響きとしてはE♭M7という感じ。[B]8小節目(39)から,1小節ずつC→C♯dim7→Dm+E(レミファラ)。[C]2,3小節目(45,46)も,響きを確認したいところ。それから[G](85)から8小節間の低音群の動きにも耳を傾けてみてください。これらに限らず,それぞれの響き,『合わせる』とか『そろえる』とかいうよりも,そのハーモニーの響きを,感じる,味わってみる。その響きが身体にちゃんと入って吹いている演奏と,そうではなく自分の音しか見えていない演奏とでは雲泥の差です。
音の方向性。たとえば冒頭木管楽器の連符は当然,2小節目のアクセントに向かいますよね。[A]の部分の16分音符(クラ,サックス,フルート,オーボエ,打楽器)も,『これが正解』というわけではないですが,たとえば,次の拍の頭の音符に向かう方向性を持って吹くのと,なにもなく吹くのとでは説得力がまったく変わってきます。ただし,方向性を持つことは,そこに駆け込むことではないので気をつけて。
楽譜の中に音楽があるわけではないですが,それでもみなさん楽譜はよく見て。スコアも見て下さい。たとえば[A]6小節目(21),松葉の向きが2種類ありますね。フルート,オーボエと,1小節あとから追うファゴット,アルトクラ,バスクラ,ユーフォの動きの『入れ替わり感』がうまく出るように。フルート,オーボエ,クラのディミヌエンドは早すぎないほうがいいと思います。そしてそのあとのクレシェンドは,8分音符からではなく6つに数えた5拍目から始まっています。
打楽器ももちろんポイント。音色,バランス。この曲に限りませんが,同じ動きの管楽器があったら必ずチェックして下さいね。スコア必携です。
トロンボーンパート解説
さて,簡単にトロンボーンパートを見ます。全体通して,曲にマッチした深みと響きのある音で演奏したいです。アクセントやフォルテピアノなど,ぶつけるのではなく十分に息を使って表現したいですね。繰り返しになりますが,ハーモニーはピッチの前にまず響きをよく感じること。[B]8小節目(39),1stは高い音ですが(トランペットも),ハーモニーの響きの中の音という意識を忘れないこと。そのほうが吹きやすいと思います。第5音だからどうするとかではなく,全体の響きに入る意識。
[D]からの速い部分,すごくゆっくりにして,2小節目の半音で下がってくる箇所など,やはりハーモニーの響きを感じてみてください。1stは少し大変ですが,2小節目や6小節目のD音は4ポジションも考えてみてください。いろいろ試して自分に合うやり方を選んでください。そして打楽器やサックス,低音群ともぜひ合同練習を。
[E]1小節前(58),4小節目(62)などのリズム,6/8のビートを感じて。ヘミオラリズムの裏と考えて,メトロノームは2拍子にしておいて4分音符(符点4分音符ではなく)単位で手拍子をしながら歌ってみるなども有効だと思います。
そのあと[E]9小節目,ホルンとともにクリアに印象的に。Bのユニゾンですが3rdは孤軍奮闘ですので少し大きめに。アクセントはたっぷりの息で。
[H],特に3rdですが長い音で息が続かなければカンニングブレスはあらかじめ決めて。それも,ぎりぎりではなく少し余裕を持った計画を。でないと本番では続きませんよ。そしてもちろんどの楽器も,8小節目(108)直前でブレスはしないほうがいいと思います。そこに向かっていくのですから。フレーズや音楽の方向性,この動きはどこに向かっていくのか,どこが頂点なのか,意識を持って。
[L]2小節目(140)から,ホルンとともに,表現工夫しましょう。イメージを持って(ちょっとミステリアスな感じ…)。レガートをきれいにつなぐことが,まずはポイント。2nd,[L]4小節目(142)5小節目(143),それぞれあたまのFを6ポジションから始めることも検討しましょう。
ラスト5小節前(156)からの動き,木管高音群から受け継いで,まるでセリフを『語る』ようなイメージで演奏できるといいと思います。見てのとおりここも空五度ですが,2つの音はやはり対等に。1stと3rdのオクターブはちょっと要注意ポイント。3rdのH音は,もしかしたら高くなりがち。F管2ポジションは楽器やF管のチューニングにもよりますが,だいたい『2.3ポジション』くらい。よく聴いて。自信がないとますます濁りますよ。気持ちは積極的に。